「おおーっと、とっととお、てえへんだあ、ダンナあ!」
2020年8月12日、高等遊民観察特派員から、エヴァンジェリスト氏のiPhone SE(第1世代)にiMessageが入った。
「なんだ、なんだ。今日も、安っぽい、岡っ引きみたいな言い方だなあ。やめろ。こっちは、ゲリラ豪雨に遭って、うみ死にそうなんじゃけえ」
エヴァンジェリスト氏は、この日も、自分の部屋で、下着のパンツとシャツ姿となり、ベッドに横たわっていた。猛暑だが、エアコンは部屋にあるものの、貧乏なので使っていない。それで、バテているのだ。
「ほいじゃったら、今日こそ、死んでみんさいやあ」
「わりゃ、下手くそな広島弁やめえや。要するに、どうしたんだ?」
「ビエール・トンミー氏が、変です」
この日も、高等遊民観察特派員の監査対象は、ビエール・トンミー氏である。
「だから、アイツは、元から変態だと云ってるだろ」
「今日も、猫と話しているんです」
「うーむ、そのことは、可哀想だと思っている。アイツには、世の中に友人はワシ一人で、奥方の他には、話せる相手は、ワシしかいないんだからな。しかも、奥方には、自分が変態であることはバレていないから、変態ちっくな話でもなんでも話せるのは、ワシだけだからな」
「まあ、同類ということですね」
「その昔、広島県立広島皆実高校1年7ホームで、甲乙付け難い、共に天才にして美少年と云われた仲ではある」
「今は、甲乙付け難い、共にただのヒヒジジイですね」
「アイツ、今日は何を猫に話していたのだ?」
「先ずは、猫から、ご託宣を得たかのように、『勝利ほど悲惨なものはない。敗北を除いては。』と呟いていました」
「なんだ、それは?」
「『クラウゼヴィッツ』ですよ。『カール・フォン・クラウゼヴィッツ』です」
「おお、『カール・クラウザー』か!」
「はああ?何ですか、それ?」
「『カール.ゴッチ』だ。猪木さんの師匠だ。初来日した時のリングネームは、『カール・クラウザー』だったんだ」
「『カール・クラウザー』ではなく、『カール・フォン・クラウゼヴィッツ』ですよ」
「おお、鉄の爪『フリッツ・フォン・エリック』か」
「『フリッツ・フォン』ではなく、『カール・フォン』ですよ」
「ああ、悪い、悪い。『キラー・カール・クラップ』だな」
「『カール』しか合ってないじゃないですか。何者か知りませんが、どうせ、それもプロレスラーでしょ。ビエール・トンミー氏が、プロレスに興味がないことは、アナタが一番、ご存じでしょう」
「要するに、プロイセンの軍人で、『戦争論』を書いた奴だろ、その『クラウゼヴィッツ』は。ビエールも『広島人』だからなあ。そして、『皆実高校人』だったからなあ。毎日、ワシの家に寄って、一緒に被曝建物である『被服廠』の横の道を通って皆実高校まで行っていたからなあ」
「ああ、原爆の爆風で窓の鉄製の扉が歪んでいる煉瓦造りの古い建物ですね?」
「アイツは、その『被服廠』解体のニュースを知り、激怒していたんだ。そして今、広島、長崎の原爆の日が今年もあり、間も無く終戦記念日となるから、戦争について物申さないではいられくなったのだろうぞ」
「うーん、そうかなあ…」
「え?」
「『クラウゼヴィッツ』の『勝利ほど悲惨なものはない。敗北を除いては。』を呟いた後は、戦争のことなんか、全く触れていませんでしたよ」
と、高等遊民観察特派員は、動画をエヴァンジェリスト氏に送ってきた。動画では、ビエール・トンミー氏が、寝転がったままの猫に対して、神妙を絵に描いたような表情で、話し掛けていた。
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『プロの旅人』を読む日本人ほど希有な人はない。『プロの旅人』を読む外国在住の人を除いては。
エヴァの奴がもう6年以上、毎週、一部関係者に送っているアイコラ・メルマガ『エヴァンジェリスト氏の独り芝居』ほど無意味なものはない。『プロの旅人』を除いては。
フランス語経済学ほど難解なものはない。フランス語を除いては。
エロほど下劣なものはない。変態を除いては。
エヴァが全国各地で講師をする研修ほど激務はない。カートとカゴの整理をする『スーパー・マン』を除いては。
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「おお、友よ……君という男は!」
エヴァンジェリスト氏は、『戦争論』の後に、敢えて『戦争』を語らぬ友人に、真に『戦争』に対する思いの強さを感じ取っていた。
(おしまい)
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