2020年8月10日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その83]






「それにしても、アプローチからしてこの雰囲気とは、贅沢な文学館だなあ」

鎌倉文学館の玄関に向かう、樹木に覆われた石畳の坂道を上りながら、エヴァンジェリスト氏が、うなづくように、そう云った。

「ああ、ここはだなあ、元々、前田家の別邸だったんだ」

ビエール・トンミー氏が解説する。

「え?前田智徳の別荘だったのか?いや、前田日明か?」

エヴァンジェリスト氏が、驚いているのか、戯けているのか分らない云い方をした。

「はああ?何を云っているのだ?トモなんとか、とか、アキラとか、そんなの知らんぞ」
「あ、『当り前田のクラッカー』の前田か?」
「『てなもんや三度笠』なんて、今時の連中には通じないぞ」
「前田武彦か?いやいや、前田美波里?前田吟?前田亘輝?前田敦子?あ、ひょっとして、前田忠明なのか?」
「知っている『前田』姓の芸能人を云っているだけだろう」
「おい、いい加減なことを云うのではないぞ。前田忠明は、芸能人ではない。芸能リポーターだ」




「知ったことか!」
「ということは、ひょっとして前田利家か?」
「本当にもう!いい加減なことばっかり……あ、いや、そうだ。その前田だ。加賀藩主となった前田利家の末裔の前田侯爵が、1890年頃だから明治23年あたりだな、別邸として建てたんだ」

ビエール・トンミー氏は、頭の中のメモさえ見ずに、解説を始めた。


(続く)



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