「て、て、てえへんだあ、ダンナあ!」
2020年8月11日、高等遊民観察特派員から、エヴァンジェリスト氏のiPhone SE(第1世代)にiMessageが入った。
「なんだ、なんだ。安っぽい、岡っ引きみたいな言い方はやめろ。こっちは、暑うて、うみ死にそうなんじゃけえ」
エヴァンジェリスト氏は、自分の部屋で、下着のパンツとシャツ姿となり、ベッドに横たわっていた。猛暑だが、エアコンは部屋にあるものの、貧乏なので使っていない。それで、バテているのだ。
「ほいじゃったら、一回、死んでみんさいやあ」
「わりゃ、下手くそな広島弁やめえや。要するに、どうしたんだ?」
「ビエール・トンミー氏が、変です」
云うまでもなく、高等遊民観察特派員の観察対象は、ビエール・トンミー氏である。
「ああ、アイツは、元から変態だ。今に始まったことではない」
「いえ、その『変』ではなく、猫と話しているんです」
「ああ、そのことか。アイツが、猫に話しているだけで、猫の方は、何も話してはいまい」
「ええ、そうです。どうして、そのことを?」
「猫は、『会長』か『副会長』だろう。アソコの猫どもは、『オフィス・トンミー』の会長・副会長だ、と暇なビエールの奴がぬかしておるからなあ。まあ、どっちにせよ、ダレ猫だから、ただダラダラ寝転がっているだけで、話も何もしやしないだろう」
「そう、アナタと同じで、ダレダレです」
「ぶ、ぶ、無礼者!『スーパー・マン』として、カートとカゴの整理の任務を終えて帰宅したばかりなんだ。今日は猛暑なだけではなく、お客様も多くて、ヘトヘトだ。ホント、死にそうなくらいなんだ」
(参照:募られて『スーパー・マン』!)
「その点、アナタのお友だちは、本当にお気楽ですね。冷房のよく効いた部屋で、ダレ猫と話しているんですから」
「まあ、アイツも新型コロナのせいで、唯一の友人であるワシに会うことができず、ストレスが溜まっているのであろう」
「なるほど、ストレスなんですね。猫から、ご託宣を得たかのように、『悲観は気分のものてある。楽観は意志のものである。』と呟いていました」
「なんだ、それは?」
「アナタ、フランス文学修士なのに、ご存じないのですか?フランスの哲学者アランの言葉ですよ」
「アラン・ドロンの言葉か?」
「面倒臭い人ですねえ。アナタのお友だちは、続けて、こうも云っていました」
と、高等遊民観察特派員は、動画をエヴァンジェリスト氏に送ってきた。動画では、ビエール・トンミー氏が、寝転がったままの猫に対して、神妙を絵に描いたような表情で、話し掛けていた。
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エロは気分のものである。欲情は意志のものである。
卑猥は気分のものである。変態は意志のものである。
『んぐっ!』は気分のものである。『反応』は意志のものである。
エヴァは軽薄の人である。ワテは意志の人である。
フランス語は意味不明である。フランス語経済学は『優』である。
簿記はボキできません。会計学は意味不明です。
エヴァのする研修は芸能的イベントである。『スーパー・マン』は艱難辛苦である。
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「おお、友よ……気をしっかり持つのだ。そんなにワシに会いたいのか!」
エヴァンジェリスト氏は、友人の異常としか思えぬ言葉の羅列に、自分に対する訴えを汲み取っていた。
(おしまい)
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