2020年8月18日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その88]






「なにおー!変態に『スケベ』とは云われたくない!」

友人のビエール・トンミー氏から、『ヰタ・セクスアリス』的な自分の中学時代を明かされただけではなく、『スケベ少年』と罵られたエヴァンジェリスト氏が、反撃に出た。

「君こそ、そのトンネルで女の子の肩を抱き、少し暗がりでひんやりでもするのをいいことに、自分の方に、彼女を引き寄せたことでもあるんだろう。いやあ、ただ引き寄せただけではあるまい!」

鎌倉文学館に向かう樹木に覆われた石畳の坂道を上り、券売所を過ぎた先に、小さなトンネルがあったのだ。

「うっ…」

ビエール・トンミー氏が、一瞬、歩を止めた。

「おや、図星だったか?」
「ち、ち、違う!」
「何が違うんだ?トンネルの前から、触りまくっていたのか?」

そうだ。実は、図星だったのだ。そのトンネルの中で、『みさを』の肩に手を回したのは、その通りだった。しかし、それを悟られまいと、ビエール・トンミー氏は、自らに怒るよう、けしかけた。

「このオゲレツ野郎!君は、いつもそんな発想しかできないのか!?恥ずかしいと思わないか?」
「いや、別に恥ずかしいとは思わんが」
「いいか、それは、トンネルではない。『うつお』だ。さんずいに同じと書く『洞(うつお)』だ」
「いや、ボクは、産業医のお世話にはなっているが、『鬱』ではない。『仕事依存症』だ」
「馬鹿野郎!この『洞(うつお)』はなあ、『招鶴洞(しょうかくどう)』と云うんだ。招く鶴の『洞(うつお)』だ。源頼朝が鶴を放ったとも云われる由緒あるトンネル、ああ、いや、『洞(うつお)』なんだぞ!」




「おお、博識大先生!大変失礼した。そんな由緒あるものとはつゆ知らず、女の子を抱き寄せるなんぞ、と戯けたことを申してしまった」

本当に反省しているのか、更に巫山戯ているのか分からぬ、大仰な物言いであった。


(続く)



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