(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その84]の続き)
「(『みさを』のシャンプーの残り香が、ボクの鼻を襲った)」
ビエール・トンミー氏の頭と体には、鎌倉文学館の玄関に向かう、樹木に覆われた石畳の坂道で、『みさを』とそこに来た時のことが、蘇って来ていた。
「(ボクは、肩に乗せて来ていた『みさを』の頭の方に顔を寄せようとした…)」
エヴァンジェリスト氏は、坂道で、眼を閉じ、立ち止まったままでいる友人を不思議そうに見ていた。
「(んぐっ!)」
またもや生じた自らの体の『反応』が、『みさを』との時のものであったのか、今のものであるのか、ビエール・トンミー氏には、やはり分らない。
「(ああ、『みさを』!....チクショー!何故、あの時…)」
ビエール・トンミー氏の顔が、肩に乗せて来ていた『みさを』の顔を覆おうとした時、後ろから声が聞こえて来たのだ。二人連れの中年女性たちであった。
「(『みさを』は、眼を瞑っていたのに!)」
と、その時、ビエール・トンミー氏の眼を開けさせる言葉が聞こえた。
「おい!ボクは、君にキスはしないぞ。眼を瞑って待っても無駄だ」
エヴァンジェリスト氏が、ニヤついていた。
「ば、ば、馬鹿野郎!」
ビエール・トンミー氏が、博識な老紳士とは思えぬ言葉を吐いた。
(続く)
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