「はあ?」
ビエール・トンミー氏は、机の上でiPhone X が鳴動する方に視線を向けた。
「(アイツか、またどうせオゲレツなことやろ。こっちは今、忙しいんや)」
とは思いつつも、ビエール・トンミー氏は、今日買ったばかりの『AirTag』を手にしたまま、iPhone X のロックを解除し、エヴァンジェリスト氏からのiMessageを読んだ。
「君は、オリンピック・パラリンピック開催反対なんだろ?」
『AirTag』には、Appleの他の製品同様、マニュアルがない。そこで、たまたま今月号のMacFanにあった『AirTag』の記事をマニュアルにしていた。iPhoneアプリの『メモ』の『写真をスキャン』機能を使って、その記事をマニュアルにしいていたところであった。
「ああ、オリンピック・パラリンピック開催大反対や。こんな状況でデケル訳ないやろ」
「オリンピックの女子新体操のチケットはどうなっているんだ?」
ビエール・トンミー夫妻は、オリンピックの女子新体操のチケットが当選し、購入していたのだ。
「まだチケット払い戻しせんで持っとるで」
「IOCは、日本が中止と云っても開催だ、と云ってるらしいが、これは、女子新体操を見たい君の差し金なのか?」
「新体操を見たいのは家内の希望や。他にも応募したんやが(馬術とか)、唯一当選したのが新体操なんや」
「君は、新体操のチケットが当った時、奥様の前で、新体操の真似して戯けてみせたんじゃあないんだろうね?」
「アホか。ワテはアンタとチャウ常識人やで」
「おお、君は、本当にボクのこと知っているなあ。おお、ボクは、新体操のチケットが当ったら、直ぐ女房の前で新体操の真似するぞ。どやしつけられるのは判っていてもな」
「勝手にせえな。もうええか?ワテ、今、忙しいねん」
「オリンピック・パラリンピックを無事、開催させる方法を考えついたんだ」
「はああ?君は、オリンピック開催賛成なのか?」
「いや、元々、オリンピックには興味はない。君もそうだろうが、1964年に『東京オリンピック』は経験しているしな」
「まあ、確かに、日本がこれから高度成長期に入ろうとする頃の、そう、ボクたちが小学4年の時の『東京オリンピック』の方が、ずっとインパクトがあったものな」
「君は、オリンピックが開催されたら、女子新体操は観に行くのか?」
「ああ、この状況での開催は大大大反対やが、…とはいえ.せっかく開催されたら、コレは観に行きたいわなあ。せやからチケットまだ持っとんねん」
「ああ、そだろう。だから、そんな君の為に、オリンピック・パラリンピックを無事、開催させる方法を考えたんだ」
「そんな方法、あんのかいな」
「ああ、あるとも。『無観客試合』かも、とも云われているが、そうではなくて、『無選手・無観客・無関係者試合』にしたらいいではないか。どうかね?」
「おお、アンタ天才や。『無選手試合』なんて常人では思い浮かばんで」
「なかなかのアイデアだろ?」
「ああ、ただの下劣漢とチャウな」
「おお、それは、まずい。オゲレツ漢としては、これもなんとかオゲレツ話に持っって行かないとなあ。でも、たまには、寸止めにしておこうか」
「ああ、止めとき」
「IOC、日本のオリンピック・パラリンピックの組織委員会は、ちゃんと試合スケジュールは組まないといけない。世界のテレビ局も、ちゃんと放送スケジュールを組まないといけない。で、そのスケジュールに沿って、選手も、観客も、関係者も、試合を妄想するんだ。テレビもちゃんと瞑想というか妄想用の音楽とイメージ映像を流さないといけない。で、試合は、個々の頭の中で行われるので、結果も色々と存在することになる。同じ試合の結果が、幾つもあるのは、画期的だろ?」
「アンタの得意な妄想やな」
「海外の選手は、日本に来ないんだ。だけど、選手村で生活することも妄想しないといけない。ほら、段々、オゲレツ・モードに入りそうだ」
「そこまでやで」
「選手村に、酒持ち込みオッケーらしいし、選手たちには、アレも配られるらしい」
「止めえな」
「だけど、ソレするのも妄想で…」
「ああもうええ、そこまでや。妄想は、アンタ一人でしときいな」
と、ビエール・トンミー氏は、iMessageアプリを終了させた。
(おしまい)
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