「ああ、途中のサービス・エリアのトイレで流したのですね?」
というエヴァンジェリスト氏宛のiMessageで、ビエール・トンミー氏を取材対象とする特派員は、ありきたりの想定をしてきた。ビエール・トンミー氏が高速道路で『走りション』をした、つまり、ベンツを走らせながらオシッコをした『ザ・ペニンシュラ香港』の傘袋の始末についてである。
「普通はそうするだろうな」
「え?ということは、そうではなかった、ということですか?はっ、まさかやあ?」
「そう、まさかやあ、だったらしいんだ」
「未だに、取っておいでなんですね、オシッコの入った傘袋を!」
「はあ~ん?君の発想が、まさかやあ、だ。自己愛の強いアイツもさすがに、そこまでのことはしないさ」
「高速道路に流したりはしないでしょうし…」
「ん?今、なんて云った?」
「え?オシッコを高速道路に流したりはしないでしょうし、と申し上げたのですが」
「おお、いい線いってるぞ」
「え!いい線!まさかやあ!」
「そう、まさかやあ、なんだ。高速道路に流しはしなかったんだ。口を結んだままだったんだからな。そう、口を結んだままオシッコの入った傘袋を、クルマのドアを開けて高速道路に捨てた、という噂だ。あくまで噂なんだが」
「ええー!それは、真っ当な人間のすることではありませんよ」
「さすがにアイツもその後、自分のことを『人非人』と、自責の念に駆られたらしい」
「後続のクルマだって、まさかやあ、と驚いたのではありませんか?」
「そうだろうなあ。『まさかやあ』とは云わなかっただろうが、慌てて避けたらしい。だが、アイツはそれを見て見ぬ振りして逃げたとも聞いたぞ」
「それって、ある種の『あおり運転』じゃああ〜りませんか」
「いや、『ペニンシュラ方式』で『走りション』をしたことは間違いないようだが、口を結んだままオシッコの入った傘袋を、クルマのドアを開けて高速道路に捨てたのが本当はどうかは定かではないんだ」
「あの方を見損ないました。見るからに素敵な紳士でいらっしゃるのに」
「ふん!君は、アイツの正体を知らぬのだ。『走りション』なんかまだいい方なんだぞ」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿