「何なん、『秘密』いうて?」
と、ビエール少年に問うた少女『トシエ』は、男子生徒たちの会話を聞いていたようであった。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年」と別れたところであった。
「え?いや…」
「今、『秘密のナントカ』云うとったじゃろ?」
「ええ、『事実は小説より奇なりと申しまして』…」
突然、『ボッキ』少年が、妙な語り口で喋り出した。
「はふん?」
一瞬、呆気にとらえた少女『トシエ』は、ただ口から息を漏らして、『ボッキ』少年を凝視めたままになったが、
「あああ」
と、ビエール少年が、『ボッキ』少年の機転に気付き、友人の頭の良さに感嘆すると、少女『トシエ』も直ぐに、『ボッキ』少年の言葉の『秘密』に気付いたが、彼女の方は、非難の言葉を発した。
「なんねえ、『私の秘密』じゃね。そりゃ、高橋圭三の『専売特許』じゃないねえ」
『私の秘密』は、その年(1967年である)の3月に終了したばかりの、NHKの人気クイズ番組であった。『事実は小説より奇なりと申しまして』は、番組の初代司会者であったアナウンサー『高橋圭三』の名セリフであったのだ。
「『事実は小説より奇なりと申しまして』は、高橋圭三の『専売特許』じゃないんだ」
ビエール少年が、口を挟んできた。
「ええ?」
少女『トシエ』は、自らの顔を『ボッキ』少年から、『夫』の方に向けた。
(続く)
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