「(んぐっ!んぐっ!)
と、頬に柔らかいものを感じながら、そして、鼻にそれまで嗅いだことのない何か芳しいものを感じながら、ビエール少年は、股間を固くさせた。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきていたが、そこに赤い髪の若い外国人女性が割り入ってきて、ビエール少年をアメリカ人のようにも、自分の弟のようにも、はたまた『ジェームズ・ボンド』のようにも捉え、別れ際にハグしてきたのだ。
少年としては背の高い方であったビエール少年ではあったが、より背の高い赤い髪の若い外国人女性の胸に頬を当てる形となっていた。赤い髪の若い外国人女性はまた、まだ日本に輸入されていなかった米国産の香水を身にまとってもいた。
「(多分、英語)マア、『バド』ッタラ。フフ」
赤い髪の若い外国人女性『ベティ』は、ハグから離したビエール少年の股間を見下ろして、微笑んだ。
「(拙い英語)ア、ア、ア……アイ・ム・ナット・『バド』」
自らの頬が熱を帯びていることを自覚しながら、ビエール少年は、必死で英語を口にした。
「(多分、英語)リッパナブキを持ってるのね、『ミスター・ボンド』」
「(拙い英語)ア、ア、ア……アイ・ム・ナット・『ボンド』」
「(多分、英語)ジャア、マタネ、『ビエール』!」
と云うと、赤い髪の若い外国人女性『ベティ』は、身を翻して、立ち去って行ったが….
「(んぐっ!んぐっ!!んぐっ!)
『ベティ』が身を翻したことで、再び、芳しい香りがビエール少年の鼻を襲ったのだ。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿