2022年10月11日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その292]

 


「なんねえ、あの外人!」


と、少女『トシエ』は、今、立ち去って行った赤い髪の若い外国人女性への敵意を向き出しにした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきていたが、そこに赤い髪の若い外国人女性が割り入ってきて、ビエール少年をアメリカ人のようにも、自分の弟のようにも、はたまた『ジェームズ・ボンド』のようにも捉え、ハグまでしてきたのだ。


「勝手に抱きついたりして、『バド』が迷惑しとるん、分らかったんかいねえ!」


少女『トシエ』は、鞄で股間を隠すようにし、体を硬直させたまま立ち尽くすビール少年を見遣りながら、唇を尖らせ、赤い髪の若い外国人女性への不満を表した。しかし、


「じゃけど、やっぱり、凄いねえ、『バド』」


と、ビエール少年に対しては、称賛の言葉を投げかけた。


「(拙い英語)アイ・ム・ナット・『バド』」


ビエール少年は、呆然としたまま、繰言のように、虚空に向けて言葉を漏らした。


「やっぱり英語、上手いんじゃねえ。外人さんと、ああように英語で話しができるんじゃけえ」

「凄いのお。あの外人が何云いよったんか、ワシ、全然、分らんかったけえ」


ビエール少年と赤い髪の若い外国人女性との会話を横でただ見守るしかなかった『ボッキ』少年も、ようやく口を開き、ビエール少年を称賛した。


「ウチは、あの外人さんが、『バド』のことを『バド』云うたんは分ったけえ」

「え?ああ…『ベティ』は、そう云ったけど」


と、ようやく我に戻ったビエール少年が、赤い髪の若い外国人女性の名前を口にした。


「ええー!あの外人さん、『ベティ』じゃったん!?」

「うん、そうらしいけど…」

「なんねえ、それなら早う云うてえや。お姉ちゃんなら、ええんじゃけえ、抱きついても」


と、少女『トシエ』は、勝手に安堵の表情を浮かべた。





(続く)




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