「奥さん?」
と、『ボッキ』少年は、怪訝な顔で少女『トシエ』の顔を覗き込んだ。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていたが、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出したのであった。
「いつか『ユーベ』に行くことになるかもしれんけえ」
少女『トシエ』は、身を捩りながら、そう云った。
「『ユーベ』?それって。どこにあるん?」
「アメリカに決っとるじゃないねえ」
「アメリカのどこなんや?」
「知らん」
「どうしてそこに行くんや?」
「そりゃ、『あたり前田』じゃろうがいねえ」
「クラッカー作りに行くんか?」
「クラッカーも作るかもしれんけど、『ホス』なんとかいうんを作るかもしれんけえ」
「え?『ホース』?『ホース』作るんかあ。アメリカで?」
「ふああ~ん???なんで、ウチが『ホース』作らんといけんのん?!そりゃ、こっちと違うて庭が広うて、芝生があって花もようけえあって綺麗じゃろうけえ、『ホース』で水撒きはせんといけん思うんよ。じゃけど、『ホース』は、ウチ、作らんけえ」
「じゃけど、ジブンが『ホース』云うたじゃろうがあ」
「『ホース』じゃのうて、ホス』なんとかいうんよ。『アーメン』の時に食べるもんじゃけえ」
(続く)
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