「え?お姉ちゃん?」
ビエール少年は、少女『トシエ』の言葉を理解できなかった。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきていたところに、割り入ってきた赤い髪の若い外国人女性がビエール少年をハグしたことに、少女『トシエ』は、腹を立てたが、その外国人女性の名前が『ベティ』と知り、『お姉ちゃんなら、ええんじゃけえ、抱きついても』と安堵したところであった。
「『ベティ』なんじゃろ?」
少女『トシエ』は、得心の笑みを頬に浮かべている。
「うん…」
「じゃったら、『バド』のお姉ちゃんじゃないねえ」
確かに、『ベティ』は、『バド』の姉であった。それは、アメリカのテレビ映画『パパは何でも知っている』の中でのことであったが。
「え!?さっきの外人が?まさかあ…」
ビエール少年が確かに日本人離れした容貌の持ち主とはいえ、『ボッキ』少年には、今会った明らかな外国人(この場合、欧米人であるが)が、友人の姉には見えなかったのだ。
「いや、ボクに姉は…妹ならいるけど」
「うん、知っとるよ」
「え?妹のこと知ってたの?」
「『キャシー』じゃろ?」
「いや…」
「ああ、自分で外人みたいなあだ名を付ける人もいるし、外人は相手をあだ名で呼ぶって、聞いたこともあるし。『トシエ』ちゃんだったら、『トッシー』って呼ばれるんじゃないのかなあ」
という『ボッキ』少年の言葉に、
「ええー!ウチが『トッシー』!?ひゃあ、なんかこそばゆいけえ。でも、『バド』、ウチのこと、『トッシー』いうて呼んでもええよ」
「あ、いやあ…」
と、ビエール少年は、会話がどんどんと予期せぬ方向に進んでいくことに困惑した。
(続く)
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