2022年10月12日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その293]

 


「え?お姉ちゃん?」


ビエール少年は、少女『トシエ』の言葉を理解できなかった。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきていたところに、割り入ってきた赤い髪の若い外国人女性がビエール少年をハグしたことに、少女『トシエ』は、腹を立てたが、その外国人女性の名前が『ベティ』と知り、『お姉ちゃんなら、ええんじゃけえ、抱きついても』と安堵したところであった。


「『ベティ』なんじゃろ?」


少女『トシエ』は、得心の笑みを頬に浮かべている。


「うん…」

「じゃったら、『バド』のお姉ちゃんじゃないねえ」


確かに、『ベティ』は、『バド』の姉であった。それは、アメリカのテレビ映画『パパは何でも知っている』の中でのことであったが。


「え!?さっきの外人が?まさかあ…」


ビエール少年が確かに日本人離れした容貌の持ち主とはいえ、『ボッキ』少年には、今会った明らかな外国人(この場合、欧米人であるが)が、友人の姉には見えなかったのだ。


「いや、ボクに姉は…妹ならいるけど」

「うん、知っとるよ」

「え?妹のこと知ってたの?」




「『キャシー』じゃろ?」

「いや…」

「ああ、自分で外人みたいなあだ名を付ける人もいるし、外人は相手をあだ名で呼ぶって、聞いたこともあるし。『トシエ』ちゃんだったら、『トッシー』って呼ばれるんじゃないのかなあ」

という『ボッキ』少年の言葉に、


「ええー!ウチが『トッシー』!?ひゃあ、なんかこそばゆいけえ。でも、『バド』、ウチのこと、『トッシー』いうて呼んでもええよ」

「あ、いやあ…」


と、ビエール少年は、会話がどんどんと予期せぬ方向に進んでいくことに困惑した。



(続く)




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