2022年10月16日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その297]

 


「なんねえ、何、云いよるん」


と、少女『トシエ』は、『ボッキ』少年の発言に呆れながらも、怒りがこみ上げてきた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』は、ビエール少年の英語力に感嘆していたが、話は、『時事放談』へと逸れていっていた。しかし、テレビ番組『時事放談』を見ていなかった『ボッキ』少年は、『GGホウダウン』というなんだかよく知らない外国人の出てくるテレビ番組と誤解し、更には、その『GGホウダウン』は、相撲関係のテレビ番組なのか、と云い出してきたのだ。


「アンタあ、『時事放談』知らんのん?」

「うん、『GGホウダウン』いうようなテレビ知らんけえ」

「いや、『GGホウダウンじゃなくって、『ジ・ジ・ホ・ウ・ダ・ン』だよ。『時(トキ)』に『事(コト)』を書いて『時事』で、『放つ』に『相談』の『談』で『放談』なんだよ。時事的な、そうだね、政治のことをお年寄り二人が云いたいことを遠慮なく云い合うから『時事放談』って名前にしたんだと思う」


ビエール少年が、混乱を収める解説をした。


「あ、そうなん、爺さんたちが話すけえ『ジジイ放談』なんじゃなかったんじゃね」

「『トシエ』さんも知らなかったんだね」

「ふん!なんねえ、アンタの方があ、『ジジイ放談』をお兄ちゃんも見とる、云うたんじゃないねえ!」

「いや、お兄ちゃんが見てるのは、『時事放談』じゃないけえ。『教育テレビ』の『田崎』先生の『テレビ英語会話』じゃけえ。トンミーくんが見とるんも、『テレビ英会話』なんじゃろ?」




「うん、そうだよ。『田崎清忠』先生の授業がわかり易いし、面白いんだ」

「お兄ちゃんも、そう云っとった。『田崎』先生に習うたけえ、『英検』準2級も取れたんじゃあ思う」

「え?『エノケン』?アンタのお兄ちゃん、『エノケン』が好きなん?ウチ、『エノケン』、テレビでちょっと見たことがるけど、全然、面白うなかったけえ。ウチ、『花月劇場』の方が面白い思うんよ」


『花月劇場』は、吉本新喜劇を放送するテレビ番組『お笑い花月劇場』のことであった。



(続く)




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