「『バイロン』もイギリスの人なんよね?」
と、少女『トシエ』は、ビエール少年を上目遣いに見ながら、言葉を続けた。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきたのを、『ボッキ』少年は、『高橋圭三』のセリフ『事実は小説より奇なりと申しまして』を持ち出し、話をはぐらかせようとしたことから、話は、詩人『バイロン』の長編叙事詩『ドン・ジュアン』へと派生していっていた。
「う、うん、そうだよぉ」
ビエール少年も、自らの体の前に持ってきた鞄で何かを隠すようにモゾモゾとしながら、答えた。
「『ジョージ』もイギリスの人なん?」
「は?いや、だから、『ジョージ』じゃなくって…」
「『ドン』と『ジュなんとか』と『ファンファン』は、スペイン人なんじゃろ?」
「そうだけど….あ、いや、そこ、ちょっと違って…」
「やっぱりアメリカに住んどったけえ、色んな国の人と友だちになったんじゃね」
「いや、ボクは、『宇部』にいたんで」
「知っとるよおね、『ユーベ』じゃろ、『バド』が住んどったんは。ウチも行ってみたいけえ、『ユーベ』に」
と、少女『トシエ』が、ビエール少年の方へと一歩、体を近づけた時であった。
「オオ、『バド』!?」
という背後からの大きな声の風圧に押し出されるように、少女『トシエ』は、自らの体をビエール少年にぶつけてしまった。
「うっ…」
ビエール少年は、呻いた。
(続く)
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