2022年10月22日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その303]

 


「え?長野に?」


と、ビエール少年は、少女『トシエ』の言葉に呆気にとられ、少しく口を開けたままにした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきたが、少女『トシエ』は、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と思ったのである。


「その『東なんとか』とか『西なんとか』いうお寺は、長野あるんじゃろ?」

「いや、違うけど、どうして、長野って?」

「じゃけえ、『浄土シンシュー』云うたじゃないねえ」

「え?云ったけど…」

「『シンシュー』いうたら、長野県のことじゃろ?ウチでも、そのくらいのこと知っとるけえ」

「あ、そういうことだったんだね。『浄土真宗』の『シンシュー』は、地名の『信州』のことじゃないんだ。それにね、『信州』は長野県のことか、っていうと、そこは難しいみたいなんだ」

「は?『信州』は、長野県じゃないん?」

「長野県でなくはないんだけど…あ、そう、『安芸国』(あきのくに)って、広島県だけど、広島県って『安芸国』ではないのとちょっと似てるかなあ」

「うん、広島市は『安芸国』にあるけど、福山市は『備後国』(びんごのくに)だったんだよね」


『ボッキ』少年が、負けじと自らの知識を披露した。


「そうなんだ。長野県は大体が、『信濃国』(しなののくに)ではあったらしいんだけど、『廃藩置県』の後、つまり、明治時代になって、『藩』を止めて『県』にした時に、長野市なんかがある今の長野県の『上』の方は、『長野県』になったけど、松本市がある『下』の方は、『筑摩県』になったんだって」

「ふううん、松本市は、『ちくわ』が名物なん?」





(続く)




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