2022年10月21日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その302]

 


「いや、柔道じゃないけえ」


と、『ボッキ』少年の顔は、『浄土真宗』の『浄土』を『柔道』と聞き違えた少女『トシエ』に対して、やや強い言葉を投げかけた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せたが、少女『トシエ』は、『浄土』を『柔道』と聞き違えたのである。


「ほうよねえ。柔道でお経唱えんよねえ。おかしい思うたんよ」


と、少女『トシエ』も納得はした。




「『柔道』じゃのうて、『浄土』じゃ」

「なんねえ、『ジョード』いうんは?」

「それはあ…」


少女『トシエ』のツッコミに『ボッキ』少年は、たじろいでしまったが、


「良くは知らないんだけど、仏様のいるところだったと思うよ」


と、ビエール少年が、友人を救おうとした訳ではなかったが、友人の代りに、少女『トシエ』の疑問に答えた。


「『浄土』の『浄』は、洗うという意味の『洗浄』の『浄』で、『きれい』ということだたと思う。『浄土』の『土」は、『つち』で、『土地』とか『くに』とかいう意味だと思う。だから、『浄土』って、きれいな、清らかな場所のことなんだと思うよ」

「ああ、仏さんがおるけえ、清らかな場所なんじゃね」

「東とか西とかじゃろ?」


と、『ボッキ』少年が、失地回復を目指して、言葉を挟んだ。


「え?仏さんは、東や西におるんねえ?南と北にはおらんのん?」

「いや、仏様のいる所の話じゃないけえ。『浄土真宗』いうんは、『東』と『西』とがあるいうて、お父ちゃんが云うとった」

「ああ、そうみたいだね。『東本願寺』と『西本願寺』とがあるらしいね」

「え?なんねえ、それ?」

「『東本願寺』と『西本願寺』というのは、お寺だよ」

「ああ、長野にあるお寺なんじゃね」



(続く)




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