「歌?歌じゃないで、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は」
と、『ボッキ』少年の顔は、知力に自信があった自分を上回るビエール少年でも知らないことがあることに、少し安心ながら、そう云った。
1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年は、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたのであったが、ビエール少年には、それが歌のように聞こえたのであった。
「うん、歌だとしたら、すっごく変な歌だよね」
「『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は、お経じゃけえ」
「ああ、お経なんだ」
「『バド』は、『キリスト』さんじゃけえ、お経は知らんよおね」
「『ナンミョーホーレンゲッキョー』なら知ってるよ」
トンミー家は、『日蓮宗』なので、『南妙法蓮華経』は知っていたのだ。
「ああ、『ナンミョーホーレンゲッキョー』も聞いたことがあるで」
「なんか、『ホーホケキョー』みたいじゃねえ」
「うん、ウグイスの鳴き声は、本当はなんて云ってるのか分らないけど、有難い仏教の『法華経』に似ていると思った人がいて、いつからか、みんな、ウグイスの鳴き声を『ホーホケキョー』と云うようになったんだと思うよ」
「『バド』は、『キリスト』さんだけじゃのうて、仏教のこともよう知っとるんじゃねえ」
「いや、そんなに良くは知らないよ。『ナ~ムア~ミダ~ンブー』だって知らなかったし。でも、広島は、浄土真宗の家が多いらしいから、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は浄土真宗のお経なのかなあ」
「え?広島は、柔道しとっての人が多かったんかいねえ?」
少女『トシエ』は、仏教の宗派に関する知識を持ち合わせていなかったのである。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿