2022年10月15日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その296]

 


「はあ~ん!?なんねえ、それええ!」


と、少女『トシエ』は、『ボッキ』少年の顔に自らの顔をぐっと近づけて強く抗議の意思表示を見せた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』は、ビエール少年の英語力に感嘆していたが、話は、『時事放談』へと逸れていっていた。しかし、テレビ番組『時事放談』を見ていなかった『ボッキ』少年は、『GGホウダウン』というなんだかよく知らない外国人の出てくるテレビ番組と誤解し、『時事放談』に出演する『オバマ・リトク』の本名が実は『オバマ・トシエ』だとビエール少年が説明したことで、より混乱をきたしていた。『オバマ・トシエ』を『オバさんトシエ』と聞き間違えてしまったのだ。


「なんで、ウチが『オバさん』なんっ!?」


少女『トシエ』の唾が飛び、『ボッキ』少年の顔についた。


「だって、『GGホウダウン』って番組に、『オバさんトシエ』っていう名前の人が出てるって…」


顔も体も後ずさりさせながら、『ボッキ』少年は、言い訳しようとした。


「いや、違うよ。『オバさんトシエ』じゃなくって、『オ・バ・マ・ト・シ・エ』だよ。『オバマ・トシエ』は、『トシエ』っていう漢字が、『利益』の『利』の

『損得』の『得』だから、音読みでよく『リトク』って呼ばれてるけど、本名は、『トシエ』なんだ」


ビエール少年は、あらためて『オバマ・リトク』について説明した。


「へええ、そうなん。『オバマ・リトク』は、本当は『オバマ・トシエ』なんねえ。『トシエ』いうてウチと同じ名前で女みたいじゃね。ただのお爺ちゃんが、ウチと同じ名前じゃいうんは、嫌じゃねえ。やっぱり『リトク』でええよね」

「それにね、『ホソカワ・リューゲン』も、日系人じゃなくって、普通の日本人のお爺さんなんだ。『ホソカワ・リューゲン』の『リューゲン』も、本名じゃないんだよ」

「ええ、そうなんねえ?!」

「『リューゲン』って、『春日野清隆』の『清隆』の『隆』に、『元素』の『元』って漢字なんだけど、これも本名を音読みしたもので、本当は、『タカチカ』って読むんだって」

「ああ、『栃錦』の『清隆』の『隆』と『元(モト)』で『リューゲン』なんねえ。でも、それを『タカチカ』ってなかなか読めんよのお」


その頃(1967年である)、横綱『栃錦』は既に引退し、『春日野』親方になっていた。


「ええ?『栃錦』?ウチ、相撲はよう知らんけど、『栃錦』は好かんけえ。お尻、汚いじゃろ?お父ちゃんも『若乃花』の方がエエいうとるけえ」




「『GGホウダウン』って、相撲関係の番組なの?」


話が逸れに逸れてしまい、聡明な『ボッキ』少年の頭も、混乱に混乱を重ねていった。



(続く)




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