2022年10月26日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その307]

 


「『銀座』って、元々は、銀貨なんかを作っていた場所のことだったらしいんだ」


と、ビエール少年が、『ボッキ』少年と少女『トシエ』に『銀座』という地名の由来の説明をした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと、更に更に、『本屋』、『銀座』へと逸れていっていき、ビエール少年は、『銀座』は東京以外の地にも繁華街等にその名前があることを説明していた。


「だから、『金座街』って、広島で金貨なんかを作っていた場所なのかなあ?」

「へええ、ほうじゃったん!?『バド』は、広島のことも、ウチよりよう知っとるんじゃねえ」


少女『トシエ』は、鼻を上向きに上下させ、誰に対してというものではなかったが、未来の『夫』と思う少年の知性を誇るそぶりを見せたが、残念ながら、未来の『夫』の解釈は間違っていた。


広島市の『金座街』は、金貨を作っていた場所だったのではなく、東京の『銀座』に負けないようにという意味を込めた名前だったのである。


「で、その『金座街』に『コーブンカン』(廣文館)っていう本屋さんがあるんだね?」

「おお、そうなんよ。『金座街』にゃあ、古本屋さんもありよって、お父ちゃんはそこにも入るんじゃけど、なんか臭いところじゃけえ、ウチ、好かんのんよ。『廣文館』の方がええけえ」


『金座街』には、『アカデミイ書店』という古本屋があるが、そこに限らず、古本屋には古本独特の臭いがあり、それは仕方のないこと、というよりもむしろ、本好き、特に古本好きな人間にとっては、好ましい匂いであるかもしれないが、他の面では大人びてきていたとはいえ、まだ中学一年の少女『トシエ』にその匂いを感じることはできなかったのだろう。


「『筑摩書房』は、本屋さんといっても、『コーブンカン』(廣文館)なんかとは違うんだ。街で本を売っている書店ではなくって、本を出版している会社なんだよ」

「おお!『岩波書店』と一緒じゃのお!『岩波書店』も『書店』というても街の本屋さんじゃのうて、『岩波文庫』なんかを出しとる会社じゃけえ。お兄ちゃんが、よう読んどるけえ」


ビエール少年には劣るとはいえ小学校時代、頭の良さで知られた『ボッキ』少年は、本屋に関するビエール少年の説明を十分に理解した。


「『筑摩書房』は、文庫は出してないみたいだけど、『太宰治』なんかの全集を出しているんだ」


『筑摩書房』が、『ちくま文庫』を出すようになるのは、まだ先、1985年のことであった。


「ああ、『太宰治』いうたら、『走れメロス』じゃろ!ワシ、読んだことあるけえ」

「その『チクワなんとか』いう本屋さんは、『銀座』にあるん?『バド』と一緒に、『走るメロン』を買いに行こうかいねえ」


『太宰治』よりも、ビエール少年と一緒に行動することの方に興味がある少女『トシエ』は、




(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿