2022年10月4日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その285]

 


「『バイロン』だよ」


と、ビエール少年が、中学一年生らしくない落ち着きで、説明を続けた。NHKのクイズ番組『私の秘密』の司会者『高橋圭三』のセリフ『事実は小説より奇なりと申しまして』についてである。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求してきたのを、『ボッキ』少年は、『高橋圭三』のそのセリフを持ち出し、話をはぐらかせようとしたのであった。


「え?『パブロン』?どしたん?急に風邪ひいたん?」


少女『トシエ』は、心配げに『夫』の顔を覗き込んだ。


「へ?いや、ひいてないけど」


『夫』の方も、『妻』の云う意味がわからず、小首を傾げ、『妻』の瞳を凝視めた。


「いやあ~ん。ウチ、風邪ひいとらんのに熱が出るけえ」


『妻』は、『夫』の視線に、『夫』には意味不明な照れを見せた。


「はあ?」

「ウチ、『クシャミ3回、ルル3錠』の方じゃけえ」


当時(1960年代である)、ちょっとクシャミでもしようものなら、側にいた者が直ぐに、『♪クシャミ3回、ルル3錠』と、風邪薬『ルル』のCMソングを口にした者であった。その時、ビエール少年は、クシャミをした訳ではなかったが。




「いや、『ルル』でもなくって」

「ウチ、『パブロン』は知っとるけど、飲まんのんよ」

「いや、風邪薬のことではなくって、『事実は小説より奇なりと申しまして』と云う言葉のことなんだ」

「ああ…」

「『事実は小説より奇なりと申しまして』って、元々は、イギリスの詩人『バイロン』の言葉だそうなんだよ」



(続く)




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