2022年10月24日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その305]

 


「でもね、『筑摩書房』は、『セキゼンカン』のような本屋さんじゃないんだ」


と、ビエール少年は、自分の想像を超えた少女『トシエ』の勘違いに戸惑いながら、『筑摩県』の説明をしようとした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと逸れていっていた。


「ほいじゃったら、『金正堂』みたいなん?」

「は?」

「そうじゃった。『バド』は、本通りは、まだよう知らんかったんよね。でも、福屋は行ったことあるんじゃろ?」


『金正堂』は、2011年まで広島市の本通りにあった書店であった。


「うん、広島に来た日に福屋の食堂に行ったよ。帰りの『小福饅頭』も買ったんだ。とっても美味しかったなあ」

「『幸福饅頭』?」

「ああ、ボクも、『幸福饅頭』かと思ったんだけど、小さい『幸福』の『福』と書いて『小福饅頭』なんだって。『七宝つなぎ』に『三つ引』のマークがついてるよね?」

「『シッポウ・ツナギ』?『ミツヒキ』?」

「うん、『福屋』のマークだよ」

「ああ、『福屋饅頭』のことねえ」


少女『トシエ』が、『福屋』マークの謂れを知らないのも無理はなかった。今も昔も、その謂れをしる広島人は多くはないであろう。


「うん、『福屋饅頭』という名前だと思っている人が多いらしいんだけど、本当は『小福饅頭』なんだって」



(参照:【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その68]



「ふうんん、よう分からんけど、今度、一緒に『福屋饅頭』買いに行こうやあ。美味しいけえ、『あ~ん』したげる。んふ」




「いや、『福屋饅頭』じゃなくって…」

「福屋に行ったんじゃったら、福屋、出たところに『フタバ図書』いう本屋さんがあったじゃろ?」


『フタバ図書』は、後に(2021年に)、長年に亘る粉飾決算が発覚し、経営破綻する書店である。


「ああ、そういえば、本屋さんを見たような気がするけど」

「福屋からちょっと行った所の『金座街』に『廣文館』もあったじゃろ?」



(続く)




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