2019年11月7日木曜日

ハブテン少年[その84]




『少年』は、その年(1968年)、好きであったテレビ番組『てなもんや三度笠』が終了したことで、もう、『チョーダイ!』とも云う蛇口一角(財津一郎)を見れなくなったのは残念であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(名は体を表す、っていうものな)」

ある日、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の正門を出て少ししたところで前方に見かけた女子生徒、面長な日本的な顔の美少女が、『パルファン』子さんであることを知ったエヴァンジェリスト少年の感想であった。

「(ああー!)」

その美少女の名前を思っただけで、鼻腔が拡がり、芳しい香りが、鼻の粘膜から染み入り、酔ったような感覚に囚われた。

「(音楽室に行くから、ここを通るだけなんだ)

誰に訊かれた訳でもないのに、心の中で言い訳する。校舎内で、頻繁に1年の『パルファン』子さんのクラスの前を通るようになっていた。

「(『パルファン』子さんと会う為じゃないんだ)」

と思いながらも、その教室の前の廊下を通る時、エヴァンジェリスト少年の視線は、出入口から教室の中へと向う。


ブラスバンドの練習を終え、『ミドリチュー』の正門を出る時、前方に『パルファン』子さんがいるのではないか、と鼓動は速くなるが、

「(なんだ、違う)」

見かける女子生徒は、『パルファン』子さんではない。

「(もう通ったのかなあ?)

自宅に帰ると、応接間から垣根と門越しに見える道路を見る。『パルファン』子さんは、エヴァンジェリスト少年の自宅前の道路を通って登下校しているのは街がない。

「(初めてだ)」

年下(学年が下)の女の子を好きになるのは初めてであった。

「(これが普通なんだ。『妻』は年下の場合が多いんだ)」

『パルファン』子さんはもう、エヴァンジェリスト少年の新たな心の『妻』になっていた。


(続く)


2019年11月6日水曜日

ハブテン少年[その83]




『少年』は、その年(1968年)、好きであったテレビ番組『てなもんや三度笠』が終了したことで、もう、『キビシー!』と云う蛇口一角(財津一郎)を見れなくなったのは残念であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(待ってて!)」

と、急いで門を開け、玄関の鍵も開け、靴を揃えることもなく脱ぎ捨て、エヴァンジェリスト少年は、子ども部屋に入ると、部屋の窓から外を見る。

「ふううんっ!」

鼻息を吐いた。『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の正門を出て少ししたところで前方に見かけた女子生徒、面長な日本的な顔の美少女は、もう見える訳がないことは分っていた。十数メートル以上先を歩いていたのだ。しかし、少女が今、通ったばかりの道路を見ると、そこに残像が見えるように思えた。

「(1年生だ、きっと、1年生だ)」

前年度(1967年度)には、『ミドリチュー』で見かけなかった少女だ。制服は新しく見えたので、1年生と思えた。

「(なんていう名前だろう?)」

という疑問は、程なく解かれた。同じ中学の生徒だ。しかも、1年生であることはまず間違いなかったことから、その解明にはさほどの時間は要さなかった。

どのように調べたのか、エヴァンジェリスト少年の記憶は定かではないが、後に『人間Siri』と云われる男は、中学生の頃から、その調査能力はずば抜けていたのだ。いやもっと前、『帰国子女』子ちゃんの住まいをストーカー的行為で調べ上げた小学生の頃から、狙った獲物は逃さない男であったのだ。



「(『パルファン』子っていうのか)」


(続く)




2019年11月5日火曜日

ハブテン少年[その82]




『少年』は、その年(1968年)、好きであったテレビ番組『てなもんや三度笠』が終了したことで、もう、『あたり前田のクラッカー』というコマーシャルが見れなくなったのは残念であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(んぐっ!)」

エヴァンジェリスト少年は、一瞬、足を止めた。

「(いや、ちが、違うんだ!)」

『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の正門を出て少ししたところで前方に見かけた女子生徒2人の後を歩いていたのだ。

「(ボ、ボ、ボクの家もそっちなんだ!)」

2人の女子生徒の一人の面長な日本的な顔に酔い、十数メートル後ろを付いてきていた。女子生徒たちが、右に曲がれば右に曲がり、左に曲がれば左に曲がった。

しかし、それは偶然にもエヴァンジェリスト少年の通学路そのものであったのだ。

そして、自宅への道の最後の道角を、女子生徒たちも、エヴァンジェリスト少年の自宅に向う方向に曲がったのだ。

「(んぐっ!)」

角を曲がるとき、面長な日本的な顔の美少女は、一瞬、こちらを見たように思え、エヴァンジェリスト少年の足が止ったのだ。

「(んぐっ!)」

困惑と胸の動悸と体の別のある部分の『異変』に、エヴァンジェリスト少年は、顔を赤らめた。

「(後をつけてるんじゃないよ!)」

深呼吸をし、脳と体を鎮め、また歩き始めた。

「(ボクの家もそっちなんだからね)」

道角を自宅に向う方向に曲がる。

「(ふうう……ふうう……)」

『異変』が生じないよう、大きく呼吸しながら、進む。それでも、

「(んぐっ!)」

面長な日本的な顔の美少女は、並んで歩くもう一人の女子生徒の方に顔を向ける時、横顔を見せるのだ。

「(ここなんだ。ボクの家はここなんだ)」

自宅前まで来たところで、道をまだそのまま直進する女子生徒たちを見遣りながら、名残惜しそうに、

「(だから、入るよ。家に入るよ)」

と、後ろ髪を引かれるとは、このようなことなのか、と自宅に入った。



(続く)



2019年11月4日月曜日

ハブテン少年[その81]




『少年』は、その年(1968年)、好きであったテレビ番組『てなもんや三度笠』が終了したが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(お!)」

『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の正門を出て、しばらく歩いたところで、道角を右に曲がった2人の女子生徒は、またしばらく歩いて、今度は、角を左に曲がったのだ。

「(良かった…)」

エヴァンジェリスト少年も、帰宅するには、その角を左に曲がるのだ。2人の女子生徒の十数メートル後ろを歩いていた。

「(後をつけているんじゃない)」

する必要もない言い訳を心の中でする。疚しさがあったのだ。

「(綺麗だあ…..)」

2人の女子生徒の一人の面長な日本的な顔に既に酔ってしまっていたのだ。

「(だって、この道は、ボクがウチに帰る道なんだ)」

確かにその通りであったが、エヴァンジェリスト少年の心は、その女子生徒をつけていた。今で云えば、立派なストーカーであろう。



「(次の角は、右だ!右に曲がってくれ!)」

エヴァンジェリスト少年の自宅は、次の道角を右に曲がり、その次の交差点の角にあるのだ。

(続く)




2019年11月3日日曜日

ハブテン少年[その80]




『少年』は、その年(1968年)、世界初の宇宙飛行士であったガガーリンが亡くなったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(!…..見たことがない…..!)」

そうだ、皆実小学校でも『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)でも見たことがなかった。

「(んぐっ!)」

『ミドリチュー』を正門を出て、翠町の自宅まで帰りながら、道端の雑草を見てはため息をついていたエヴァンジェリスト少年の息が止っていた。

「(こんな子がいるのか!)」

それ程の美しい女子生徒であった。友だちらしき女子生徒と帰宅しながら、会話し、時々、横顔を見せる。面長な日本的な顔だ。



「(んぐっ!)」

2人の女子生徒は、エヴァンジェリスト少年の十数メートル先を歩く。

「(どうしよう…….)」

何がどうしよう、であるのかは分らなかったが、追い越すことはせず、そして、近づき過ぎることもせず、歩を進める。

「(お!)」

2人の女子生徒は、道角を右に曲がった。

「(良かった…)」

エヴァンジェリスト少年も、帰宅するには、その角を右に曲がるのだ。

「(んぐっ!)」

その女子生徒が横顔を見せる度に、体のある部分が『反応』する。

(続く)


2019年11月2日土曜日

ハブテン少年[その79]




『少年』は、その年(1968年)放映が始まった『巨人の星』を面白く見てはいたものの、ダーティーなイメージしか持たない『巨人』を舞台として描いていることはけしからんと思ったが、そんなとではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(ああ、つまらない….)」

『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の正門を出て、翠町の自宅まで帰りながら、道端の雑草を見て、まだため息をつく。



「(『クッキー』子さん…..)」

エヴァンジェリスト少年は、『離婚』したのだ。

「(クラス替えなんかしなくていいのに)」

小学校では(広島市立皆実小学校では)、原則、クラス替えは2年に一度であったが、中学では(広島市立翠町中学では)、学年が変わる度にクラス替えがあるのだ。

「(『クッキー』子さんには、もう新しい『夫』がいるんだろうか?)」

エヴァンジェリスト少年は、まだ少年であった。心の『妻』と決めた『クッキー』子さんと同じクラスでなくなると、『婚姻』関係は消滅すると思っていたのだ。

「(もう『隠れんぼ』もできない…..)」

『妻』といっても、ただ『隠れんぼ』を一緒にするだけの関係であり、今時(2019年)の少年少女と違い、それ以上の『交際』をするわけでもなかったので、日々、同じクラスで生活を、空間を共有できなくなると、二人の関係は疎いものとなるのであった。

「(今度のクラスには、いい子はいないし)」

2年のクラスには、エヴァンジェリスト少年の心をときめかす女子生徒はいなかった。

「(初めてだ)」

子どもだが子どもなりにませていたエヴァンジェリスト少年は、小学校1年生の時から必ず、クラスに好きな女の子がいたのだ。

「(あーあ….)」

と、見るとはなく見ていた道端の雑草から視線を前に上げた時であった。

「(んぐっ!)」

(続く)



2019年11月1日金曜日

ハブテン少年[その78]




『少年』は、その年(1967年)、早川電機工業という会社が(今のシャープである)IC電卓なるものを発売したことを知ったものの、自分はそんな高級そうなものは一生使うようになることはないだろうと思ったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「君たちはバカなんじゃ」

ブショー先生のその言葉は耳に入っていたが、特に反発を覚えることもなく、エヴァンジェリスト少年の眼は、虚ろであった。

「(つまらない…..)」

ブショー先生の授業がつまらないのではなかった。

「どうしてか、云うたら…..」

ブショー先生は、『君たちはバカなんじゃ』という理由を説明し始めた。

「毛利が、広島の優秀な人間を皆、山口に連れて行ったけえ。見てみい。山口からは総理大臣がようけ出とるが、広島からは池田勇人だけじゃろ」



今(2019年)からすると暴論にも聞こえるが、その時(1968年)、エヴァンジェリスト少年は、ブショー先生のその言葉に妙に納得した。

「(なるほど…..)」

今もってエヴァンジェリスト氏は、ブショー先生の説を信じている。総理大臣が偉いとはとても思えないが(漢字もろくに読めない者もいるのだ)。

「ブショー先生は、ちょっとあれじゃけえ」

エヴァンジェリスト少年の両親は、ブショー先生を快く思っていなかった。

「『ニッキョーソ』じゃけえ」

しかし、エヴァンジェリスト少年は、解せなかった。『ニッキョーソ』が何であるかを知らなくはなかったが、

「(どうして、『ニッキョーソ』がいけないんだろう?)」

『ニッキョーソ』を好きな訳でもなかったが、

「『ニッキョーソ』は、『キョーサントー』じゃけえ」

と云うエヴァンジェリスト少年の親世代の多くが、『ニッキョーソ』、『キョーサントー』というだけで嫌悪感を抱いていることに違和感があった。そこに理屈があるようには思えなかった。

「(わからん)」

資本主義陣営にいる日本人として、当時、敵対関係にある社会主義陣営側にあると思われる『キョサントー』を嫌悪していることは、中学生といえども理解はしていた。

自由がないように見えるソ連のような社会主義国に日本がなればいいとは思っていなかったが、親たちは、『キョーサントー』即、『悪』としているだけのように(ただ、何かに、何者かに、刷り込まれているだけのように)感じたのだ。

「(大人の多くが支持する『ジミントー』の方が、余程、『ワルモン』ではないのか)」

ブショー先生は、『ワルモン』には見えなかった。ブショー先生に肩入れするつもりもなかったが、大勢に流される大人たちへの反発はあった(父親は、『ミンシャトー』支持であったが)。

しかし、エヴァンジェリスト少年は、『ハブテン少年』であった。だからまだ、大人たちに反抗することはなかった。

「(それにしても、つまらん)」

その時(1968年)、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の2年生の自分のクラスで、エヴァンジェリスト少年は、人知れずため息をついていた。

(続く)