2022年6月14日火曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その2]

 


「ああ、アイツのことかあ」


エヴァンジェリスト氏は、『ナンパ老人』に関するニュースだと連絡してきたあの特派員に、iMessageながら呟くように返した。


「君は、アイツを取材対象とする特派員だから、まあ、当り前といえが当り前だな」

「そうです。あの方です」

「ビエールの奴が、若い女に『ナンパ』でも試みて、撃沈したのか」

「『ナンパ老人、危機一髪!』なんです」

「敢えなく撃沈しただけで『危機一髪!』は、大袈裟だなあ。女の連れの男が、その筋の人間で、凄まれでもしたのか?」




「はあ?何か誤解されてませんか?『ナンパ』の相手が、若い女であるのは確かですが」

「20歳台後半か?」

「おお、まさにその通りです!」

「アイツは、昔から若い娘が好きだからなあ。それに、美人だったんだろう?」

「ええ、私も『んぐっ!』するくらいの美人でした」

「おいおい、その『んぐっ!』は、やめておけ。ビエールの奴は、『んぐっ!』が大嫌いだからな」

「どうして、あの方は、『んぐっ!』がお嫌いなんでしょうか?」

「うーむ、それは、よくは分からんが、『んぐっ!』できなくなっているからじゃないかと思う。しかし、その状態で、アイツ、よく『ナンパ』する気になったな」

「はあ?あの方が、『ナンパ』されたのですか?」

「こっちが、『はあ?』だ。20歳台後半の若い美人を『ナンパ』した、と報告してきたのは、君だろうに」

「私、そうは申し上げておりません。あの方が『ナンパ』、という主旨のことは申し上げましたが」

「あの方が『ナンパ』、という主旨のこと、だとかなんとか、その面倒臭い云い方はやめんか。つまり、アイツは、20歳台後半の若い美人を『ナンパ』したのではないのだな?」

「そうです」

「ということは、ははあ~ん、アイツ、20歳台後半の若い美人に見とれて、『難破』してしまったんだな?」

「はあ?はあ?はあ~ん?貴方、馬鹿ですか?」



(続く)




2022年6月13日月曜日

【緊急衝撃特報】ナンパ老人、危機一髪![その1]

 


サウンド『シンセ』が鳴った。


「はあ?なんだ、こんな時間に」


ベッドに半身を起こし、面倒臭そうに返信した。着信音サウンドの『シンセ』は、あの特派員からのiMessgeであり、エヴァンジェリスト氏は、iMessageで返したのだ。


「こんな時間も何も、まだ午後6時になるところではありませんか」

「さっき、孫を2人、娘のところまで送っていったところで疲れているんだ」

「ああ、近所にお住いの娘さんのお子さんですね。まだ、4歳と2歳でいらっしゃる」

「ああ、そうだ」

「娘さんがパートに出る日なんかに、保育所がわりに、よくお孫さんをお預かりになるんですね。迎えに行き、送っても行かれるんですよね」

「そうだ。ウチに来ている間、相手もしなくてはならんのだ」

「クルマを持たないどころか、運転免許も持たない貴方は、お孫さんの送り迎えも、チャイルドシートを付けた自転車でなさるんですよね。でも、リアに、つまり、チャイルドシートは、後部に付けただけなので、一度に乗せられるお孫さんはお一人で、だから、2人を迎えに行くのも2往復、お2人を送って行くのも2往復なんですよね。電動アシスト自転車でもないから、余計に大変なんですよね」




「ワシの自転車のハンドルは、『オールラウンダー』だから、前にチャイルドシートは取り付けできんのだ」

「『オールラウンダー』って、フラットというかストレートのハンドルですね。『アップハンドル』でないとチャイルドシートは付けられませんからね。しかし、幼児を自転車に乗せるのは、20数年ぶりの貴方は、間違って、取り付けが簡単だからと、前方用のチャイルドシートを買ってしまい、あらためて、後方用のチャイルドシートを購入し、取り付けてもらったんですね」

「五月蝿いなあ!そんなことどうでもいいだろう。ワシは、疲れているんだ。ベッドに体を横たえたばかりだったんだぞ」

「しかし、このニュースを知ったら、どんなに疲れていても、貴方は、ベッドから飛び上がられるでしょう」

「いや、この歳になると、少々のことでは驚かん」

「ええ、貴方は、ロシアによるウクライナ侵攻でも驚かれはしなかった。世間の人たちは、21世紀の現代に戦争が起きるとか思っていなかった、と衝撃を受けていますが、貴方は違った」

「ああ、別に驚いてはおらん」

「ええ、貴方は、『20世紀でも21世紀でも、中東やらアフリカやらアフガニスタンやらで戦争はずっとどこかで起きているが、ヨーロッパ、というか白人が多いであろう地域で起きた戦争だからなのか、或いは、報道のされ方もあってなのか、今回のウクライナでの戦争が、自分たちには身近に感じられるのだろう。日本だって、戦争に行く米軍に基地を提供してきているんだから、間接的には戦争をしてきているのに、自分たちにその意識も殆どないし、平成の時代に日本に戦争がなかった、という者がいたり、そう思う人間が多いのには呆れる』とお思いだ」

「君は、どうして、ワシがそう思っている、と勝手に云うのだ」

「あれ、違ってましたか?」

「そんなことより、何のニュースだ?ワシは、兎に角、疲れているんだ。勿体を付けるなら、寝るぞ」

『ナンパ老人』です!」

「はあ?『ナンパ』?『老人』?」

「ほうら、驚いたでしょう!」



(続く)




2022年6月12日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その257]

 


「やっぱり『バド』じゃあ!」


と、少女『トシエ』は、確信し、自らの頭を幾度か上下させた。。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の英語の授業で、他の生徒が読めなかった英語の文章を、ビエール少年が、教師に指名され、難なく読んでみせたところであった。


「『ボッキ』くんより、凄いねえ」


他の女子生徒も、戸坂小学校では敵なしで成績優秀で、そして、小学校ではまだ習っていなかった英語も難なくこなす『ボッキ』少年を引き合いに出し、ビエール少年を称賛した。その言葉が耳に入ってきた『ボッキ』少年も、屈辱感はあったものの、


「ああ…」


と、英語でも、ビエール少年の実力を認めざるを得なかった。ビエール少年が、今、眼前で読んでみせた英語の文章を、自分はビエール少年のように、一般の日本人には聞き取れないほどの発音で読むことはできない自覚があったからである。


「あれが、アメリカ人の英語なんじゃねえ」

「ほうよねえ。ウチ、テレビでアメリカ人が英語喋っとるん聞いたことあるけど、ああような感じじゃった」

「アメリカに長うおっちゃったけえね」

「アメリカの『ユーベ』におっちゃったじゃろ」

「やっぱり、お父さんかお母さんが、アメリカ人なんじゃ」

「おじいちゃんかおばあちゃんがアメリカ人じゃったんかもしれんけえ」

「じゃけえ、英語の先生も、すぐにトンミーくんに読ませるんじゃろう」


と、クラスの女子生徒たちは、『東京弁』を喋るビエール少年のことを、東京からの『転校生』と捉える男子生徒たちに対し、流暢な発音で英語の文章を読むビエール少年をさすがにアメリカ人少年とは思わないものの、アメリカ帰りと信じ込んでいた。


そして、教師も、


「ええ発音じゃ。ワシ、より上手いかもしれんのお」


と褒めたが、ビエール少年は、自惚れた様子は見せず、静かに席に着いた。


と、


「『バド』、今度、ウチに英語教えてくれん?」


隣席(ビエール少年の左隣) から、少女『トシエ』が、ビエール少年にグッと顔を近づけてきた。





(続く)




2022年6月11日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その256]

 


「トンミーい、読んでみい」


英語の教師が、そのクラスの教室の最後列中央の席で、背中に棒でも入れたかのように背筋を伸ばして座る生徒を、指差しながら呼んだ。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室であった。


「今の段落、最初から読んでみい」


教師も生徒たちも開いている英語の教科書のページに書かれた文章を読むよう、ビエール少年を指名した。教室の前方には、その文章を読めず、頭を掻きながら佇む別の生徒がいた。


「はい」


落ち着いた声で返事をしたビエール少年が、穏やかに席を立ち、文章を読めなかった生徒は、入れ違うように、席に着いた。


「また、トンミーくんじゃ」


生徒に一人が、そう云い、他の生徒たちも頷いた。まだ、入学して1ヶ月も経っていなかったが、英語の教師は、生徒たちが読めずにいる文章があると、すぐにビエール少年をあて、読ませるようになっていたのだ。


🎵ペーラペラペラペーラペラ~」




英語の文章を読む声が、何かの音楽のように聞こえ、女子生徒たちの眼は半開きとなり、その音楽に合せ、頭は緩やかに円を描くように揺れた。


「That’s all.」


ビエール少年は、英語の教科書を自分の机の上に置き、教師に顔を向けると、静かにそう云った。


「おお、ようできた。トンミーには簡単過ぎるのお」


と、教師は、満足感に崩れた顔をビエール少年に向けたが、ビエール少年は、謙虚に俯くだけであった。




(続く)




2022年6月10日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その255]

 


「(ふぁ~あ…)」


ビエール少年の顔が、自らの顔を近付いた隣席(ビエール少年の左隣)の女子生徒は、鼻を上向け、眼を泳がせた。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の数学の授業で、他の生徒が解けなかった問題を、ビエール少年が、教師に示され、難なく黒板上で解いてみせ、教師やクラスの生徒たちの称賛を得ながら、席に戻ったところであった。


「(ああ~!これじゃ、アメリカの匂いじゃ)」


と、その日の朝食でも、極めて日本人らしく納豆を食してきたビエール少年を、そうとも知らず、アメリカ帰りの少年と決めつける隣席(左隣)の女子生徒は、そう、ビエール少年が、広島に引っ越してきた日、広島駅から乗った青バス(広電バス)に乗り合わせたあの少女であった。


「(やっぱり『バド』じゃ)」


ビエール少年を当時(1960年代である)、人気のあったアメリカのテレビ映画『パパは何でも知っている』の長男『バド』のように捉えた少女、『トシエ』である。



(参照:【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その13]



そして…


クラスの他の女子生徒たちも、ビエール少年のことを、


「アメリカに長うおったんじゃろうねえ」

「アメリカの小学校、卒業したんじゃろう」

「なんか日本人じゃないような顔しとらん?」

「お父さんかお母さん、アメリカ人じゃないん?」

「おじいちゃんかおばあちゃんがアメリカ人じゃったんかもしれんよ」




と、さすがにアメリカ人少年とは思わないものの、アメリカ帰りと信じ込んでいたし、それも無理からぬところではったのだ。


それは……


「トンミーい」


英語の授業でも、教師が、数学の教師同様、ビエール少年を指名するからであった。




(続く)




2022年6月9日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その254]

 


「やっぱり東京は凄いのお」


と、『ハナタバ』少年は、感心し、自らの頭を幾度か上下させた。。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の数学の授業で、他の生徒が解けなかった問題を、ビエール少年が、教師に示され、難なく黒板上で解いてみせたところであった。


「『ボッキ』くんより、『上』じゃあ思うでえ」


別の生徒が、戸坂小学校では敵なしで成績優秀であった『ボッキ』少年を引き合いに出し、ビエール少年を称賛した。その言葉が耳に入ってきた『ボッキ』少年も、屈辱感はあったものの、


「ああ…」


と、ビエール少年の実力を認めざるを得なかった。ビエール少年が、今、眼前で難なく解いてみせた問題を、自分はビエール少年程に早く解くことはできない自覚があったからである。


「ようできたでえ」


と褒める教師の言葉を背に、ビエール少年は、席に戻ってきた。


「『ボッキ』くんより頭がええと思わんかったあ。東京弁を喋ると、ああように頭がようなるんかいねえ?」


と、『ハナタバ』少年は、惚けたことを真面目に口にしたが、彼に限らず、クラスの男子生徒たちは、『東京弁』を喋るビエール少年のことを、東京からの『転校生』と捉えていた。中学校に入学したばかりであったので、厳密には『転校生』ではなかったが。


「凄いんじゃねえ、『バド』」


隣席(ビエール少年の左隣)の女子生徒が、妙な名前で、ビエール少年に声を掛けた。


「んん?『バード』?」


ビエール少年が、隣席(左隣)の女子生徒の方に顔を向け、口を少し開けたまま、小鳥のように小首を傾げた。





(続く)




2022年6月8日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その253]

 


「トンミーい」


数学の教師が、そのクラスの教室の最後列中央の席で、背中に棒でも入れたかのように背筋を伸ばして座る生徒を、指差しながら呼んだ。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室であった。


「おい、これ解いてみい」


黒板に書かれた問題を解くよう、ビエール少年を指名した。黒板の横には、その問題を解けず、頭を掻きながら佇む別の生徒がいた。


「はい」


落ち着いた声で返事をしたビエール少年は、穏やかに席を立ち、問題を解けず席に戻る生徒とすれ違いながら、前に進み出て行った。


「また、トンミーくんじゃ」


生徒に一人が、そう云い、他の生徒たちも頷いた。まだ、入学して1ヶ月も経っていなかったが、数学の教師は、生徒たちが解けずにいる問題があると、すぐにビエール少年をあて、解かさせるようになっていたのだ。


🎵スラスラスラ~」


チョークが黒板を滑る音が、何かの音楽のように聞こえ、女子生徒たちの眼は半開きとなり、その音楽に合せ、頭は緩やかに円を描くように揺れた。


「はい、できました」




ビエール少年は、チョークを黒板の粉受けに置き、教師に顔を向けると、静かにそう云った。


「おお、ほうじゃ。正解じゃ。トンミーには簡単過ぎたかのお」


と、教師は、満足感に崩れた顔をビエール少年に向けたが、ビエール少年は、謙虚に俯くだけであった。



(続く)