2018年11月18日日曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その29]







「(ユキ!)」

そうだ、『内田有紀』に酷似した女性は、自分の娘を『ユキ』と呼んだのだ。

「(偶然だ….)」

勿論、偶然に決っている。しかし、『ユキ』と呼ばれた少女は、母親の方に振り向く際に、一瞬、ビエール・トンミー氏の股間に視線を落とした。

そして、

「ニッ!」

と意地悪な笑みを浮かべたのだ。

ビエール・トンミー氏は、硬直した。ある部分だけでなく、全身を硬直させた。

「アータも行くわよ」

妻に声を掛けられ、硬直の呪縛が解け、ビエール・トンミー氏は、妻とともに『シアター』に入って行った。

『シアター』では、旨味に関する映像が、360度のスクリーンに展開された。圧巻であった。

が、『シアター』を出る時、ビエール・トンミー氏は、何を見たのか、分らなくなっていた。

4面のスクリーンには、旨味に関する映像が流れていたはずであったが、ビエール・トンミー氏には、10代、20代、30代、そして、40代の『内田有紀』が走馬灯のように巡っているように思えた。



次は、工場見学だ。



(続く)

2018年11月17日土曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その28]







「あら、可愛らしいお嬢さんねえ」

マダム・トンミーは、『内田有紀』、いや、『内田有紀』に酷似した女性の娘に微笑みながら、声を掛けた。

「いえ、ご主人様こそ素敵でいらっしゃるわ」

『内田有紀』は、ビエール・トンミー氏に意味深な(ように見える)笑みを向けた。

「(え、え、ええ!...あ、あ、ああ…『腫れ』があ!)」

ビエール・トンミー氏の頬は、『味の素うま味体験館』の『AjiPanda®️』の赤よりも赤くなった。

「いえいえ、おじいちゃんですわ、もう。ふふ」

妻と『内田有紀』が会話をしている。その時、視線に気付いた。

「(え?)」

『内田有紀』の娘だ。『内田有紀』に酷似した女性の娘が、ビエール・トンミー氏を見上げるように凝視めていた。

「(え!?『有紀』さん….?)」

ボーイッシュであった10代の『内田有紀』かと思えたのだ。母娘なのだから、『内田有紀』の娘が『内田有紀』にそっくりでも不思議ではない。



「(まるで、『有紀と太陽と月と』の頃の『有紀』さんだ)」

10代の『内田有紀』の視線に戸惑っていると、『シアター』の時間となった。

『内田有紀』が、娘に声を掛けた。

「『アジパンダ』との写真は後にしよ。シアターに行きましょ、ユキ」
「!!!!!」


(続く)



2018年11月16日金曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その27]







「アータ、横に立って」

あのご婦人が気になったが、ビエール・トンミー氏は、『味の素うま味体験館』の受付の左手にいる『AjiPanda®️』の横に立った。



「(『有紀』さん…..)」
「どうしてパンダなのかしら?」
「え?」
「ま、可愛いからどうでもいいけど」
「うん」

ビエール・トンミー氏は、気の無い返事をしていたが、突然、カッと目を見開いた

妻の背後に、あのご婦人と娘がいたのだ。一瞬、こちらを見て微笑んだように思えた。

「ママ、アタシも『アジパンダ』と写真撮ってえ」

娘が『内田有紀』におねだりをした。

「よろしいかしら?」

『内田有紀』が妻に声を掛けてきた。

「(えっ!)」

鼓動が早く、『腫れ』も再び激しいものとなった。


(続く)



2018年11月15日木曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その26]







トンミー夫妻は、『味の素うま味体験館』に入った。『味の素』の工場見学にきたのだ。

「(『「ほんだし®️」コース』だろうか?『「味の素®️」コース』か、或いは、まさか、ボクたちと同じ『「Cook Do®️」コース』ではあるまい)」

直ぐ前を歩くご婦人の臀部から顔へと視線を移しながら、ビエール・トンミー氏は、思った。ご婦人は、並んで歩く娘の方に向き、横顔を見せたのだ。

「(『有紀』さん…..)」

どう見ても、『内田有紀』であった。

「あら、パンダだわ」

妻が云う方を見ると、赤いパンダの人形が、『Welcome』という看板を持って立っていた。

『AjiPanda®️というらしい。

「アータ、後で記念写真撮りましょう」
「ああ….(チッ)」

『AjiPanda®️』の方を向いている内に、あのご婦人の姿は見えなくなっていたのだ。

受付は、予約した際の名前とコースを告げるだけなので、簡単に済んでしまうのであった。

トンミー夫妻も受付を済ませた。

受付では、『川崎工場見学ブック』と『「Cook Do®️」コース』の名札をもらう。



「ロッカーに荷物預けましょ」

妻に促されて、無料のロッカーに行き、荷物を預けた。『「Cook Do®️」コース』では、ホイコーロー(回鍋肉)の調理体験もあるので、荷物は持っていない方がいい。

「(『有紀』さん…..)」

ロッカーに荷物を預けながらも、目の端であのご婦人を探していた。


(続く)



2018年11月14日水曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その25]







「(『有紀』さん…….)」

『味の素うま味体験館』横にある『味の素グループうま味体験館』とある案内板の前で写真を撮った直ぐ後のトンミー夫妻の間を通って行ったのは、中学生くらいに見える女の子とその母親らしき女性とであった。

「(どうして…..)」

どうしても何も、そこに用があったからに決っているが(しかも、多分、自分と同じ用だ)、ビエール・トンミー氏は、心中で疑問の声を出さざるを得なかった。

「(ああ、折角、『腫れ』が引いていたのに…..)」

母親らしき女性は、そう、南武線の中で見かけ、『大師線』で見かけた『内田有紀』に酷似したご婦人である。

「(ううーっ!)」

また『腫れ』出し、ビエール・トンミー氏は、思わず、身を捩った。

「アータ,どうしたの?」
「いや、かかとをこの道路の淵にちょっとぶつけてね」
「あーら、気を付けて」
「ああ….うん」

なんとか誤魔化し、ビエール・トンミー氏は、『味の素うま味体験館』に歩を進めた。

「!」

思わず左手を見た。妻が、手を握ってきたのだ。驚くことはなかった。さっきまで、ここまで、手を握って歩いて来たのだ。



「(ごめん….)」

妻の手を握り返しながらも、ビエール・トンミー氏は、心の中に謝罪の言葉を抱いた。

謝罪の言葉を抱きながらも、『腫れ』はいや増し、ビエール・トンミー氏は、前を歩くご婦人の臀部を凝視めていた。



(続く)

2018年11月13日火曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その24]







「(ああ、ボクは妻を愛している)」

ピンクの足跡を辿りながら、手を繋いで(愛し合っているからだ)、トンミー夫妻は、目的地まで来た。

『味の素うま味体験館』である。

マダム・トンミーは、『味の素うま味体験館』横にある『味の素グループうま味体験館』とある案内板の前に夫を立たせ、iPhoneで写真を撮った。


「(素敵だわ。64歳になったなんて思えない。ピンとした姿勢!)」
「(ああ、妻は若い!ボクより10歳下だから若いのは当り前だが、どう見ても40歳台だ)」

写真を撮る妻、写真を撮られる夫が、図らずも互いの心中で同じような思いを抱いた。

しかし…..

「(あ!)」

夫は、思わず出しそうな声を喉元で止めた。妻は、撮ったばかりの夫の写真をiPhoneの画面で確認していた。

「(……..!)」

夫婦の間を何かが通ったのだ。

「(まさか……)」

夫の目は、『何か』を追った。

「ママあ。この足跡って、パンダなんでしょ?」

中学生くらいに見える女の子の声であった。


(続く)



2018年11月12日月曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その23]







『大師線』の『鈴木町駅』に着き、駅構内の踏切を渡る時、ビエール・トンミー氏の『腫れ』はおさまっていた。

『コロムビア・ローズ』、『東京ローズ』のお陰である。

『鈴木町駅』の改札を出ると、目の前に白く大きな建物が見え、上部に『Ajinomoto』という赤い文字がある。

そうだ、トンミー夫妻は、『鈴木町』の『味の素』に来たのだ。

「ああ、『味の素』は、もう『Ajinomoto』なんだなあ」

ビエール・トンミー氏は、『Ajinomoto』の赤い会社ロゴを見上げながら、呟いた。

「ええ?」
「いやね。ボクにとって、『アジノモト』って、漢字とひらがなの『味の素』なんだよ」
「ふううん」

夫よりも10歳若いマダム・トンミーには、『アジノモト』が、『味の素』であろうと、『Ajinomoto』あろうと、どちらでも良かった。

「子供の頃、『味の素』って、漬物にかける調味料だった。いつも食卓においてあった」
「ウチにも置いてあるわよ、パントリーにだけど」
「主に漬物だったが、まあ、何にでも『味の素』をかけたものだ。それで美味しくなったのかどうか、よくは分らなかったけど」
「あら、美味しくなるわよ。だって、グルタミン酸だもの。旨味よ」

トンミー夫妻は、『Ajinomoto』の赤い会社ロゴのついた建物に向かって歩いていた。

「ああ、今や、旨味は、世界遺産だもんなあ」
「ええ、世界遺産になった『和食』の決め手は『旨味』ですものね」

二人は、歩道にあるなんだか動物の足跡らしきものを辿っていた。ピンクの足跡である



「君も世界遺産に登録だね。だって、『旨味』たっぷりだからね」
「まあ!....ふふ」


(続く)