2019年5月18日土曜日

住込み浪人[その90]







「今日も頑張りましょっ」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』出演者控室のドアが開き、入って来たのは、大きなウエーヴのかかった髪型の老婦人であった。控室にいる者たちに声をかけた。

「(しまった!)」

振り向いて、いい匂いの主が、その老婦人であることを知った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、いい匂いに『反応』してしまった股間に両手を当てたまま、無言で舌打ちした。

「(『デヴィル夫人』…..)」

芸能関係には疎い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年ではあったが、『デヴィル夫人』のことは知っていた。勿論、『テイトー王』に出演しているからでもあったが、『デヴィル夫人』は元々は芸能人ではなかったからである。

「あら、この部屋、今日はなんだか臭いわねえ」

『デヴィル夫人』が、持っていた扇子で鼻を隠した。その所作は気品を感じさせるものであった。そう、『デヴィル夫人』は、その昔、『インドジェネーシ』国の建国の父と呼ばれた同国の『スケルノ』大統領の夫人(第3夫人)であったのだ。日本人であるが、EBSテレビのある青坂にあった高級クラブのホステスであった時に、『スケルノ』大統領に見初められたのだ。



「(んぐっ!)」

『デヴィル夫人』が扇子を鼻に持って行くときに起こした風に乗ってきたいい匂いに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間が再び、『反応』した。

「(いや、違う!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、必死で否定した。『デヴィル夫人』は、80歳近いおばあちゃんであったが、かつては絶世の美女であり、今も年齢を感じさせぬ美貌であった。つけている香水もそんじょそこらで売られているものではなかったのであろう。

「あーら、何が違うのかしら?そもそも、アータ、だーれ?』

『デヴィル夫人』が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を直視しながら云った。

「夫人、こちら、『住込み浪人』のビエール・トンミー君です」

テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江が、紹介した。

「あーら、あなたなのね、噂の『住込み浪人』って。今日は、ヨロシクね」

と云うと、『デヴィル夫人』が右手を差し出した。

「あ、はい…..」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年も右手を差し出し、『デヴィル夫人』と握手を交わした。その瞬間、

「(んぐっ!んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間がまたまた、大きく『反応』した。

「あら!この部屋、今日は本当に臭いわねえ」
「夫人、あちらの控室に参りましょう!」

それ以上、その部屋にいられない、いや、それ以上、その男の側にいたら、卒倒してしまうと思ったアシスタント・ディレクター松坂慶江は、『デヴィル夫人』を抱えるようにして自らと共に、部屋の外に連れ出した。VIP出演者の『デヴィル夫人』の控室は、別に個室があったのだ。


(続く)


2019年5月17日金曜日

住込み浪人[その89]







「ここよ、入って」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江が、後ろから付いて来ているはずの『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に促した。そこは、『テイトー王出演者控室B』と書かれた札がドアに貼られた部屋であった。

「あ、はい……」

憧れの『太もも』、いや、憧れのアイドル歌手『アマゾネス・ジャン』と廊下ですれ違い、しばらく歩行困難となっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、まだ『硬直』の残る股間を両手で抑えながら、控室に入って行った。

「うーーん!なんだ!」

大柄な男が、叫んだ。

「なんか、臭いなあ!」

山上シンジである。刑事ドラマ『太陽をくわえろ!』で売り出し、スポーツ根性ドラマ『ゲール・デ’コール』の教師役で人気を博した俳優である。


「ご紹介します。こちら、『住込み浪人』ビエール・トンミーさんです」

アシスタント・ディレクター松坂慶江が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を見ないようにして、控室にいる人たちに紹介した。

「ああ、君か、今回の『助っ人』は。ヨロシクね」

『テイトー王』で、『五目並べの天才』と呼ばれる俳優の鈴木イチロー太が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に声を掛けた。

「あ、宜しくお願いします」

と返事はしたものの、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、鈴木イチロー太も山上シンジもそれが誰であるのか、、分らなかった。俳優なのか、タレントなのか、或いは、芸能人のマネージャーなのか、テレビ局関係者なのか、分らなかった。芸能関係には、『アマゾネス・ジャン』以外は、ほぼ全く興味がないからであった。

「あーら、皆さん」

控室の中、入口近くに立っていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、背後から、いい匂いが流れて来た。

「(んぐっ!)」


(続く)


2019年5月16日木曜日

住込み浪人[その88]







「オッカーのシータ……」

EBSテレビ本社ビルの廊下を歩いてきた2本の太ももの主は、鼻歌のように小声で歌う女の子であった。長髪を真ん中分けし、膝上15cmのミニスカートを履いていた。

「『アマゾネス・ジャン』…..」

クイズ番組『テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江が、呟いた。

そう、2本の太ももの主は、アイドル歌手『アマゾネス・ジャン』であった。ブラジル出身だが、中国系だ。その美貌とたどたどしい日本語で、若い男のたちを虜にしていた。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の歩みが止まった。度を越した股間の『硬直』のせいで、歩行困難となったのだ。

受験勉強の最中ではあるが、『テイトー王』の他に、同じEBSテレビの人気歌番組『夜のベストテン・スタジオ』を欠かさず見ていた。ほぼ毎週、お気に入りの『アマゾネス・ジャン』が出演するからであった。より正確には、お気に入りの『太もも』が出演するからであった。

「(んぐっ!んぐっ!)」

その『太もも』が今、生で眼の前に現れたのだ。


「(ふん、こんな子がいいの?子どものくせにあんなに脚をさらけ出して)」

と、思いながらも、松坂慶江は、すれ違う『アマゾネス・ジャン』に愛想笑いを向けた。テレビ局にとっては、視聴率を稼いでくれる大事なタレントであるからだ。

「でも、臭ーっ!」

松坂慶江の笑顔が、苦痛に歪んだ。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の放つ臭いが、強烈さを増したのだ。

「ん、もーっ!止まってないで、来てちょうだい!」

松坂慶江は、振り向かずに、住込み浪人』ビエール・トンミー青年を急かした。

「(このままだと、倒れちゃいそう!)」


(続く)



2019年5月15日水曜日

住込み浪人[その87]







「臭ーっ!」

EBSテレビ本社ビルの廊下を歩くクイズ番組『テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江は、思わず思ったままの声を出した。

「何!この臭い!」

そして、怖かったが、思い切って振り向いた。その臭いは、後方からきていたのだ。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、前方を凝視めたまま、両手で股間を抑えていた。

「ん、もーっ!お尻見てたのね!」


「(いや、違う!)」
「ええ?」

確かに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の視線は、アシスタント・ディレクターのお尻、脚を超えた先に向いていた。

「ああ….」

アシスタント・ディレクターの前方から、2本の太ももが歩いてきていたのだ。


(続く)



2019年5月14日火曜日

住込み浪人[その86]







「着いて来て。でも、近づかないで!」

青坂のEBSテレビ本社ビルのエレベーターを飛び出すように降りたクイズ番組『テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江は、振り向かずに、背後にいるはずの『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に向け、そう云った。

「あ、はい……」

初めてのテレビ局内に戸惑いながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、アシスタント・ディレクターの後を追った。

「(ん?なんだ、これは?)」

廊下の壁にポスターが貼ってあったのだ。『日曜ドラマ・集団昇天』とあった。

「(こんなドラマあったかなあ?)」

『日曜ドラマ・集団昇天』は、次のクールのドラマであり、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、まだその存在を知らなかったのだ。



「(ふーん、『尾道マサアキ』が主演かあ)」

と、ハンサムな歌手で俳優『尾道マサアキ』主演ドラマのポスターから、視線を外し、自分の前をお尻をプリプリ振りながら歩く、アシスタント・ディレクターの方に顔を向けた時であった。

「(んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の全身に痺れが走り、股間は、その痺れのあまりに『硬直』したのであった。


(続く)



2019年5月13日月曜日

住込み浪人[その85]







「(ん、もーっ!このエレベーター、遅いんだから!)」

青坂のEBSテレビ本社ビルのエレベーターの中で、クイズ番組『テイトー王』の女性アシスタント・ディレクターは、エレベーターのスピードに、しびれを切らしていた。決して、エレベーターが遅かったのではない。アシスタント・ディレクター松坂慶江には、遅く感じられただけであったのだ。

「(このままだと、倒れちゃいそう….ホント、臭い!でも……ああ、この臭いったら!ああ)」

と、同じエレベーターに乗った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には背を向けるようにしながら、両手を股間近くに持っていき、モジモジとした。

「(なんだ、この人。オシッコでも漏らすんじゃないだろうな)」

アシスタント・ディレクターの背中、というか、お尻のあたりを見ながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、心配になった。エレベーターには、二人だけであった。


「(エレベーターの中でされたもんには堪らないぞ)」
「(堪らないのは、こっちの方だわ。ああ、もうダメええ….)」

その時、エレベーターのドアが開いた。目的階に着いたのだ。

「あああああ……」

松坂慶江は、もう堪らず、声を上げながら、エレベーターの外に出た。


(続く)


2019年5月12日日曜日

住込み浪人[その84]







「うん?『ベンツー』じゃあないのか…..」

OK牧場大学の正門前から動き出したEBSテレビの迎えのクルマの中で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、呟いた。

「はあ!?アンタ、『便通』って、お腹でもくだしてるのかい?そう云えば、なんか臭いなあ」

運転手は、その呟きを聞き逃さなかった。

「いえ、漏らしてません」
「ん、もーっ!臭いのは、そのせいじゃなくって…..」

助手席に座ったクイズ番組『テイトー王』の女性アシスタント・ディレクターは、窓から顔を出すようにして云った。


「『ベンツー』って、クルマのメーカーで….」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、小声で抗弁した。

「ふん!そんなことくらい分ってるさ。何を贅沢云ってるの。アンタ、『スミロー』だろ。『スミロー』に『ベンツー』なんて高級車、勿体無いよ」
「すみません……実家のクルマが『ベンツー』で、殆ど『ベンツー』にしか乗ったことがないので….」
「金持ちの家の馬鹿ボンボンかあ。まあ、金はあっても、『テイトー』には入れないからなあ」
「いえ、この人、『テイトー』には合格したんです。ふう」

アシスタント・ディレクターの松坂慶江は、窓外の空気を吸いながら、説明した。

「はあ?だって、『スミロー』だろ?」
「でもそうなんですう。『テイトー』に合格にしたのに辞退したんです、この人。ふう」
「まあ、よく分らないけど、着いたよ」

クルマが、EBSテレビ本社の玄関に止った。


(続く)