2019年10月21日月曜日

ハブテン少年[その67]




『少年』は、その年(1967年)に、森永製菓が発売開始した、鳥をモチーフとしたパッケージの『チョコレートボール』は美味しく好きであったものの、決して裕福ではない家庭の子であったので、たまにしか買えないものであったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「ピンポーン~~~~」

門のチャイムが鳴った。広島市翠町のエヴァンジェリスト少年の自宅である。

「は?誰だろう?」

エヴァンジェリスト少年は、そびに来ていた『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の1年で同じクラスの友人であるエトワール君と子ども部屋にいた。

「ちょっと見てくるね」

その日、自宅には、両親も兄たちもいなかった。

「はーい!」

エヴァンジェリスト少年は、友人を子ども部屋に置き、玄関に向った。そして、玄関を開け、数歩先にある門の鉄格子の向こうにいる人を見て、思わず唾を飲んだ。


「あ!....ちょっと待って!」

とその訪問者に云うなり、家の中に戻り、エトワール君を呼んだ。

「エト君!」
「なに?」
「あの子だよ」
「え?あの子?
「ほら、君の」
「えっ、えっ、ええー!」

事態を察したエトワール君も玄関まで来た。そして、二人揃って、玄関を出た。

「やあ……あ!」

門の鉄格子の前に立つには、申すまでもなく、エトワール君の好きな女の子であったが………


(続く)



2019年10月20日日曜日

ハブテン少年[その66]




『少年』は、その年(1967年)に『建国記念の日』という祝日ができ、学校が休みとなる日が増えたことは喜んだものの、その制定の背景らしきものは子供ながらも疑問の残るものであったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「眼があったんだ」

広島市翠町の自宅の子ども部屋でエヴァンジェリスト少年は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の1年で同じクラスの友人であるエトワール君に告白した。その日は、土曜日で、エトワール君が、遊びに来ていたのだ。

「エヴァ君、ボクも昨日、眼があったけえ」

二人は、それぞれ自分の好きな子を告白しあっていた。そして、その好きな女の子と『眼があった』(だから、あの子もボクのこと好きなんだろう)と云いあうのは、その日が初めてではなく、ほぼ毎日、そう云いあっていたのだ。まだまだ子どもであった。まだ、中学生の『恋』なんて、その程度のものでしかなかった時代であった。

「(あの子のどこがいいんだろう?)」

正直なところ、エヴァンジェリスト少年は、エトワール君の好きな女の子のどこがいいのか、分らなかった。ブスではなかったが、ややふくよかな体型で、自分の趣味ではなかった。体型の問題ではなく、その時のエヴァンジェリスト少年には、『クッキー』子さん以外、眼中になかったのである。


「(でも、あの子は、『クッキー』子さんの友だちなんだ。だから、いい子なんだ。エト君、良かったね)」

何がいいのか、よく分らないが、確かにエトワール君の好きな女の子は、『クッキー』子さんの一番の友だちであるようだった。丁度、エヴァンジェリスト少年とエトワール君が学校でツルンデいるように、『クッキー』子さんとエトワール君の好きな女の子もツルンデいた。

「(エト君は、ボクの『妻』の友だちの大事な人なんだ。だから、ボクもエト君と仲良くしないとなあ)」

エヴァンジェリスト少年の妄想は、なんだか打算的であった。しかし、2人の友だち同士の男子生徒のそれぞれ好きな女子生徒2人も友だち同士であるという妄想は、実は妄想ではなかったのだ。


(続く)



2019年10月19日土曜日

ハブテン少年[その65]




『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1963年に発売を開始した『ファミリア』は優れたファミリーカーでああったものの、競合車であるトヨタの『カローラ』の方がずっと売れたが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(素敵よ、アナタ)」

きっと『妻』はそう思っているだろうと夢想しながら、エヴァンジェリスト少年は、ステージの上で、アルト・サックスを吹く。1967年の『広島市青少年センター』である。『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の文化祭、ブラスバンド部(吹奏楽部)の演奏だ。

「(今日は、ご褒美に『クッキー』を焼くわね。ふふ)」

アルト・サックスのマウスピースを咥えたまま、心の中で勝手に『妻』と決めた同級生が、台所でオーブンから『クッキー』を取り出すところを夢想する。

「(今日の『クッキー』はフィンランド風よ。ふふ)」

演奏している曲が、交響詩『フィンランディア』だからフィンランド風の『クッキー』と夢想する。しかし、フィンランド風の『クッキー』がどんなものかは知らないし、フィンランド風の『クッキー』なるものが存在するのかどうかも、その時、エヴァンジェリスト少年は、知らなかった。実際には、フィンランドには『スプーンクッキー』なる伝統的な『クッキー』があるのだが。



「ブー、ブブー…..」

『妻』との生活を夢想しながら、エヴァンジェリスト少年は、相変らず、自分のアルト・サックスのパートがどこであるか明確には分らないまま、

「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」

と、アルト・サックスを吹いた。

「ブー、ブブー…..」

そして、なんとか交響詩『フィンランディア』の演奏はエンディングを迎えた。

「バチバチバチバチバチバチ!」

万雷の拍手であった。ブラスバンドの演奏が良かったのからであるのか、お愛想に過ぎないのかは、分らない。しかし、女子生徒の多くは、ある一点を、いや、ステージ上のある男子生徒を凝視めながら、必死で手を叩いていた。

「やっぱりアラン・ドランじゃねえ」

演奏が終り、ブラスバンドの部員全員が立ち上がる。アルト・サックスを首から下げた『アラン・ドロン』も立ち上がった。

「(どこだろう?)」

客席に『妻』を探すが、客席は暗く、やはり見つからない。指揮をされたムジカ先生と一緒に部員全員、礼をする。

「バチバチバチバチバチバチ!」

『妻』も『夫』に懸命の拍手を送っていたことを、つまり『妻』の想いを、『夫』である少年は、その時はまだ知らなかった。


(続く)


2019年10月18日金曜日

ハブテン少年[その64]




『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1965年に発売を開始したワンボックスバンの『ボンゴ』という名前が好きであったものの、商用車であり、乗ったことはなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(『クッキー』子さん……)」

ステージ上から『妻』を探すが、見つからない。エヴァンジェリスト少年は、客席全体を見廻す。クラス毎に席が決っているので、大体の場所は分かるが、客席は何しろ暗いのだ。そこは、『広島市青少年センター』であった。

「(あ、始まる….)」

ムジカ先生が、タクトを持つ右手を上げた。いよいよ演奏の始まりである。その日は、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の文化祭の日であった。エヴァンジェリスト少年の所属するブラスバント部(吹奏楽部)が、ステージ上で、交響詩『フィンランディア』の演奏を披露するのだ。



「(イチ、ニー、サン、シー….)」

その日も(本番でも)、エヴァンジェリスト少年は、自分のアルト・サックスのパートが始まるまでの小節を指を折って数えた。数えながら、

「(『クッキー』子さんが、見てるんだ!)」

自分が心の中で勝手に『妻』と決めた同級生のことに想いを馳せた。

「(あ、どこまで進んだんだ?)」

何小節まで進んだのか分らなくなった。

「(え!?!え!...どうしよう)」

動機がしてきた。曲は、練習を始めた頃よりは分ってきていた。

「(あ、そろそろじゃないのか…..どうする!?)」

確信はない。

「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」

エヴァンジェリスト少年は、意を決して、アルト・サックスのマウスピースを咥える口を絞り、息を吹き入れる。

「ブー、ブブー…..」


(続く)



2019年10月17日木曜日

ハブテン少年[その63]




『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1957年に発売を開始したオート三輪トラック『T1550/T2000』のデザインも好きだったものの、やはり三輪車なので安定性にかけているようにも思えたが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(ここでやるのかあ…..)」

小学校の頃から、毎年、学級委員を務め、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の1年生であるその年(1967年)も、2学期、級長になっていたエヴァンジェリスト少年は、人前に立つこと、そこで何かを話したり、仕切ったりすることには慣れていたが、そこでは、少し緊張した。

「(体育館とは違う)」

ステージで演奏するのだ。それは初めてだ。しかし、『ミナミショー』(広島市立皆実小学校)でも『ミドリチュー』でも体育館のステージ上がったことはある。でも、そこで演奏したことはない。



「(階段になっている)」

そこは、『シミンキュウジョー』(広島市民球場)の隣にある『広島市青少年センター』である。原爆ドームも近い。

「(映画館みたいだ)」

『青少年センター』のホールは、劇場、映画館のように、客席が階段になっている。

「(音楽教室の階段の席とは規模が違う)」

音楽教室も階段教室であったが、それとは比べようもないのは当然だ。

「(客席がかなり遠くまである)」

ステージから、遠い上の方の席を見上げる。

「(ついに今日が来た……)」

その日は、『ミドリチュー』の文化祭の日であった。『ミドリチュー』の文化祭のイベントの一つとして、ブラスバンド部(吹奏楽部)は、『広島市青少年センター』で演奏するのだ。曲目は勿論、交響詩『フィンランディア』だ。

「(どこだろう…..?)」


(続く)


2019年10月16日水曜日

ハブテン少年[その62]




『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1959年に発売を開始したオート三輪トラック『マツダ・K360』の可愛いデザインが好きだったものの、乗ったことはなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(え?いいのか?)」

1967年、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽教室で、エヴァンジェリスト少年は、アルト・サックスのマウスピースの中で、呟いた。

「(適当なところで吹き出しただけなんだけど……)」

その年の文化祭でブラスバンド部(吹奏楽部)が演奏する交響詩『フィンランディア』の合同練習だ。

「(ま、いいのか…ま、いいんだろ)」

『フィンランディア』という曲を知らないエヴァンジェリスト少年は、ジブの担当するアルト・サックスのパートが、冒頭から何小節も休みで、いつ自分が吹き出せばいいのか、分らなかったが、顧問でタクトを振るムジカ先生が何も云わないので、勝手に『よし』と判断した。

「(うーむ…….そろそろかなあ……)」

その後もアルト・サックスの出番は少ない。少ないと、曲がどこまで進み、またもやいつ自分が吹き出せばいいのか、分らない。

「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」

エヴァンジェリスト少年はまた、恐る恐るアルト・サックスのマウスピースを咥える口を絞り、息を吹き入れる。

「ブー、ブブー…..」

その調子で練習を続けた。次の日も、その次の日も……

そのうちに、段々、交響詩『フィンランディア』がどんな曲か分ってきた。

「(だけど、やはりつまらない……)」

エヴァンジェリスト少年は、『ハブテン少年』であったが、少しずつ、それも心の中だけであったが、ハブテルようになってきていた。しかし、表向きはまだ『ハブテン少年』なので、

「(うーむ…….そろそろかなあ……)」

と思いつつ、

「ブー、ブブー…..」

とアルト・サックスを鳴らした。

「??…..」

合同練習中、クラリネットを吹く女子部員たちは、斜め後ろから、妙なタイミングで、



「ブー、ブブー…..」

と妙な音をするのが聞こえたように思えた。

「(誰?....どうして、ここでそんな音が?)」

と少しだけ振り向いて見るが、そこには、『アラン・ドロン』が眉間に皺を寄せている。

「んぐっ!」

中学の女子生徒たちは、男子生徒たちより『セイチョウ』が早い。妙な音のことよりも、『アラン・ドロン』と同じ空間を共有し、同じ曲を共有している歓びが勝った。


(続く)


2019年10月15日火曜日

ハブテン少年[その61]




『少年』は、父親が勤務する東洋工業(現在のマツダ)が1962年に発売を開始した『キャロル』のクリフカットのリアウインドウのデザインが好きだったものの、『キャロル』も『スバル360』程には売れなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(え?...ええ?...えええ?)」

戸惑った。口が開いていた。1967年、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽教室で、エヴァンジェリスト少年の眼は、譜面の上を彷徨っていた。



「(どこから?...いつなんだ!?)」

その年の文化祭で演奏する、交響詩『フィンランディア』の練習が始っていた。


「(今、どこだ?)」

自分のパート(アルト・サックス)は、始まってから何小節も出番はない。どこから出ていいか(アルト・サックスの自分のパートを吹き始めたらいいか)は、小節を数えていけばいいと思っていたが、甘かった。

「(分らん!)」

心中の言葉ではあったが、思わず、広島弁に戻っていた。汚いから嫌だ、と棄てた広島弁に戻ってしまう程に、焦った。

「(そろそろか?)」

指を折って小節数を数えていたが、曲の演奏ペース自体を把握できない為、指を折って数えた小節数が合っているのかどうかが分からなくなったのだ。

「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」

エヴァンジェリスト少年は、恐る恐るアルト・サックスのマウスピースを咥える口を絞り、息を吹き入れた。

「ブー、ブブー…..」


(続く)