2021年2月7日日曜日

バスローブの男[その97]

 


「君が欲しいのは、この画像か?」


エヴァンジェリスト氏からのiMessageには、そうあった。金髪の外国人女性が全裸で仰向けになり、正面を見据え、右手を上にあげかけ、左手も何か動かそうとしている状態の画像である。録画されたNHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』の画像キャプチャーである。


「あっ、ついにビデオ見たな。そうだ、この写真だ。正確にいうとこの直前から『ブツ』は映ってたと思う。ボクは、コマ送りで詳細に確認したからな。NHKも変わったもんだ」


ビエール・トンミー氏は、眼の前にあるバスローブが中で回る洗濯機の音も忘れ、エヴァンジェリスト氏に、そう返信した。エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏の勧めに応じ、『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』の再放送を録画していたのだ。


「番組を全部見たんじゃない。肝心の箇所だけを探したんだ。女房がいて、リビング・ルームのテレビではキャプチャーできないから、自分の部屋で『お部屋ジャンプ』で再生して、写真に撮ったんだ。『お部屋ジャンプ』では、コマ送りできないんだ。苦労しているんだぞ。君が、録画したのを消してしまった、と嘆いていたからな」


エヴァンジェリスト氏は、勿体をつけてきた。


「ああ、有難い。君に感謝する」


ここは、下手に出るしかない。


「『”体毛”を捨てたサル』は、BD(ブルーレイディスク)に焼いておく。いつか新型コロナ騒動が収まり、君と再会できた時に、渡す」




「おお、そうか、そうか。本当に有難う!」



(続く)



2021年2月6日土曜日

バスローブの男[その96]

 


「ウゲーッ!」


ビエール・トンミー氏は、嘔吐いた。かつてエヴァンジェリスト氏が勝手に送ってきた彼のバスローブを着たイメージ画を見てモドシそうになったその時の感覚が蘇ったのだ。だから、バスローブが中で回る洗濯機の前に立ったまま、今、エヴァンジェリスト氏から送られてきたiMessageを開くのを躊躇していたのだ。


「(まさか、今度は、別荘のジャクジーに入ったイメージ画でも送ってきたんじゃないだろうなあ…)」


と思ったが、いつまでも読まない訳にはいかないので、恐る恐るiPhone X の画面をタップした。


「お!」


ビエール・トンミー氏の瞳孔は開いたままとなった。


「(これは!)」


金髪の外国人女性が全裸で仰向けになり、正面を見据え、右手を上にあげかけ、左手も何か動かそうとしている状態の画像であった。そして…


「(んぐっ!)」


そう、その金髪の全裸の外国人女性の腰の『Y字』部分には、『インモー』があったのだ。




「(エヴァの奴、ついに見たんだな!)」


画像の右上には、『HUMANIENCE 毛を薄くした女の戦略』と、右下には、『映画「マイライフ・アズ・ア・ドッグ』と表示されていた。そして、よく見ると、画像の周りには黒い鬱があり、その下部には『Panasonic』とあった。そうだ、テレビ画像を写真に撮ったものだったのだ。


(続く)




2021年2月5日金曜日

バスローブの男[その95]

 


「(月にせいぜい5万円くらいのはずだ。なのに…)」


バスローブが中で回る洗濯機の音とiPhone X の着信音『ハロー』とを耳にしながら、ビエール・トンミー氏は、唯一の有友人であるエヴァンジェリスト氏の貧しい生活を思った。着信音『ハロー』は、エヴァンジェリスト氏からのiMessageのものだからである。


「(なにしろ時給は、1,013円だろうに)」


エヴァンジェリスト氏は、年金だけでは生活できず、『スーパー・マン』として働いているのだ。シルバー人材センター経由で、『スーパー』で、カートやカゴの整理、灯油の給油、資源ゴミの整理をしているのだ。時給は、ビエール・トンミー氏の記憶通り、東京都の最低賃金1,013円で、月の労働時間は50時間程度、つまり付きの収入は5万円くらいなのだ。



[参考]『スーパー・マン』は、『スーパーマン』か!?[前編]

[参考]『スーパー・マン』は、『スーパーマン』か!?[後編]



「(なのに、別荘を持つだなんて!)」


ビエール・トンミー氏は、以前、エヴァンジェリスト氏が勝手に送ってきた、その実兄(エヴァンジェリスト氏は、次兄であるその兄を『ヒモ君』と呼んでいた)とのiMessageの続きを思い出す。


「(なにが、軽井沢、鎌倉だ!シドニーもだって!)」


エヴァンジェリスト氏は、『ヒモ君』に、別荘を持つと突然言い出し、『ヒモ君』に、その別荘を使ってもいい、行くには自分の専用機も使っていいとホラを吹き、『ヒモ君』も、期待し、自分の奥さんと使わせてもらうと返していたのだ。



=========================

 ・

 ・

 ・

(ヒモ君)『テンシ』子[ヒモ君の奥さん、エヴァの兄嫁である]さんが、エヴァ君は「関東の上沼恵美男」と言っています。


(エヴァ)はて、その心は?


(ヒモ君)大阪の上沼恵美子さんは、大口を叩く事で有名です


(エヴァ)ああ、そういうことですか。

     しかし、上沼恵美子は、かなり儲けてるはずですから、エヴァ君(自分のことである)とはちょっと違うかもしれません。


(ヒモ君)いえいえ、エヴァ君も今からが勝負です。


(エヴァ)勝てば大口ではなくなりますね

     モナコにも別荘を持ちます。


(ヒモ君)モナコも良いですね。その通りだ頑張ってください


(エヴァ)頑張らずに結果だけ欲しい。


(ヒモ君)人事を尽くして天命を待ちましょう


(エヴァ)何も尽くさず天命だけ早く欲しい。

     ハワイには別荘はもちません。雀と鳩が多過ぎるので。


=========================



「(『テンシ』子さんにはお会いしたことはないが、『上沼恵美男』とは上手いことを云う人だ。しかも、けなしているようで、実は、エヴァの奴への愛情がある)」


そう思った。ビエール・トンミー氏は、大学受験で広島から上京した際、エヴァンジェリスト氏のお兄さん、そう、『ヒモ君』にはとてもお世話になり、エヴァンジェリスト氏と『ヒモ君』とのiMessageで、『ヒモ君』の優しさを思い出したが、その夫人(再婚した相手)である『テンシ』子さんの優しさも読み取り、ほのぼのとした感じを持ったのだったが….


「(なのに、エヴァの奴、戯けたことを抜かしてきた)」


エヴァンジェリスト氏は、彼の次兄である『ヒモ君』との『別荘』に関するiMessageの後に、こう書いてきたのだ。


「(ボクは、別荘で、バスローブを着たい。君がいつもそうするように)」


そして、そのイメージ画まで送ってきたのだ。





(続く)




2021年2月4日木曜日

バスローブの男[その94]

 


「トゥルントゥ」


風呂の脱衣場に置かれた洗濯機の前に立つビエール・トンミー氏のiPhone X で、着信音『ハロー』が鳴った。


「(は?)」


着信音『ハロー』を設定しているのは、友人のエヴァンジェリスト氏からのiMessageだ。


「(アカプルコにも別荘を持とうかと思う、とか、またどうせクダラン話だろう)」


エヴァンジェリスト氏は最近、分不相応にも、別荘を持ちたい、と云い出していたのだ。


「(実兄とあんなiMessageのやり取りをするとは、貧乏なくせに暇な奴だ)」


ビエール・トンミー氏は、以前、エヴァンジェリスト氏が勝手に送ってきた、その実兄(エヴァンジェリスト氏は、次兄であるその兄を『ヒモ君』と呼んでいた)とのiMessageのやり取りを思い出す。




=========================


(エヴァ)軽井沢と鎌倉に別荘を持とうと思います。


(ヒモ君)期待しています。『テンシ』子さん[ヒモ君の奥さん、エヴァの兄嫁である]と二人でお邪魔したいです。


(エヴァ)ああ、いつでも使って下さい。シドニーにも持ちますから、そちらも。


(ヒモ君)益々期待が膨らんできます。


(エヴァ)ヨーロッパにもどこか持ちます。


(ヒモ君)『テンシ』子さんと二人で行sく、行く!


(エヴァ)海外に行く場合には、ボクのプライベート・ジェットを使って下さい


 ・

 ・

 ・

=========================




エヴァンジェリスト氏と彼の次兄である『ヒモ君』とのiMessageでのやり取りをそこまで読み、


「(エヴァの奴もエヴァの奴だが、あの男にして、あの兄あり、というところだなあ)」


と思ったことも思い出した。


(続く)




2021年2月3日水曜日

バスローブの男[その93]

 


「(もし、そのまま残していたら…)」


風呂の脱衣場に置かれた洗濯機の前で、ビエール・トンミー氏は、身震いをした。風呂上りで裸になっていたからではなく、録画しておいたNHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』を妻が見たら、と思ったからであった。金髪女性の『インモー』が映されているのだ。


「(だから、消したんだ。でも…)」


妻に見られたくなかったから、録画した『”体毛”を捨てたサル』を消したものの、あの『インモー』をもう見ることができないと思うと、HDDレコーダーの『番組消去』メニューを押した自分の右手親指が恨めしくなる。


「(あの声も、あの声も、消してしまったんだ!)」


『”体毛”を捨てたサル』で、『インモー』、『インモー』と云う女性ナレーター、女性アナウンサーの声が、脳内で木霊する。




「(だが、家内があの番組を見たら…!)」


後ろめたさが勝つビエール・トンミー氏の思考は、冷静さを欠いていた。NHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』は、間違ってもお色気番組、オゲレツ番組ではなく、人間を科学する教養番組なのだが…


「(ああ、ボクが変態だということがバレてしまう!)」


ビエール・トンミー氏は、間違ってはいなかった。普通であれば、30年も『夫婦生活』を続けていれば(ここ最近は、ご無沙汰ではあるものの)、妻は、夫が変態かどうか分っていそうなものだが、マダム・トンミーは、夫のことを、普段は温厚な紳士、ベッドというリングでは獰猛なレスラー、としか理解していないからだ。


「(ああ、あの映画、あの声…)」


と、ビエール・トンミー氏が歯軋りした、その時……


(続く)




2021年2月2日火曜日

バスローブの男[その92]



「(『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は、アメリカのゴールデングローブ賞で外国映画賞を受賞したし、アカデミー賞で監督賞と脚色賞にノミネートもされた秀れた映画だ)」


誰に言い訳するわけでもないが、ビエール・トンミー氏は、自分のそんな説明では自分自身を誤魔化せないことは知っていた。バスローブが中で回る洗濯機の音も聞こえなくなっていた。


「(でも、どんな秀れた映画でも、『インモー』が映ったことは事実だし…いや、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』が問題ではないんだ)」


『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のことは知らなかった。後で調べ、それがゴールデングローブ賞で外国映画賞を受賞した名画であることを知っただけなのだ。


「(天下のNHKの番組で、ナレーターの女性や女性アナウンサーが何度も、『インモー』、『インモー』と云っていたのだ。ああ、ボクは、そのことに興奮してしまったんだ!)」


今も頭の中に、NHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』で『インモー』、『インモー』と云う女性の声が回る声が聞こえ、思わず、両脚を窄めてしまう。


「(番組の中で、アナウンサーが、『アソコは縮れてる』と云ったが、優秀な『インモー』研究家のボクは、これは自分の『インモー』を頭に浮かべながらの発言だな、と看破した)」





更に、自分もそのアナウンサーの『インモー』を頭に浮かべたことを思い出す。


「(なのにい…)」


ビエール・トンミー氏は、歯軋りした。


「(ああ、折角、録画したのに消してしまった…)」


『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』は、間違って消してしまったのではない。


(続く)




 

2021年2月1日月曜日

バスローブの男[その91]

 


「(嘘じゃないんだ。ボクは、洗濯が好きなんだ)」


バスローブが中で回る洗濯機の中を見るとはなしに見ながら、ビエール・トンミー氏は思う。


「(いや、洗濯が好きなことは嘘ではないが…)」


しかし、ビエール・トンミー氏は、『己を見る』男であった。友人のエヴァンジェリスト氏が、修士論文『モーリアック論』のテーマとしてあげた『己を見る』ということを実践する男、いや、実践せざるを得ない男、自身を誤魔化すことはできない男であった。『原罪』を知る男なのだ。


「(このバスローブを家内に洗わせる訳にはいかないんだ…)」


ビエール・トンミー氏は、バスローブにある『染み』が付いていることを知っている。


「(あの時だ)」


『染み』が付いた瞬間は分っていた。


「(『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のあの瞬間だ)」


前夜もビエール・トンミー氏は、独りきりの自室で、『インモー』研究をしていたのだ。風呂上りでバスローブ姿であった。


「(家内は、知らない…)」


ビエール・トンミー氏が、NHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』を録画し、コマ送りして見ていたことを知らない。番組内で流された映画『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』で金髪女性の『インモー』が映り、目ざとくそれを見つけたビエール・トンミー氏は、コマ送りで『インモー』が映った瞬間を確認していたのだ。




「(『ヒューマニエンス』は、西洋美術関係の番組ではないが、『体毛』というからには『インモー』も出てくるだろうと思っていたが、ビンゴだった!)」



(続く)