2019年9月30日月曜日

ハブテン少年[その46]




『少年』は、『広島カープ』の『三村敏之』内野手が、後には名選手、そして、名監督になるものの、入団1年目の1967年は、まだあまり試合に出てはいなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(なんじゃ、猿腕かあ)」

『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の体育の教諭であるパンヤ氏は、授業で徒手体操を教えている時、抜群に覚えのいい男子生徒が、腕を脇から横に上げる際に真っ直ぐにならないのが、不思議であった。

「(猿腕じゃあ、しょうがないのお)」

その男子生徒の腕は、『猿腕』だったのだ。『猿腕』とは、肘から先が外に曲がっている腕である。肘から先だけをローリングさせることもできる。女性に多く、男性には少ない。

「(ほいじゃけど、コイツは頭がええだけじゃのうて、ハンサムじゃのお)」

猿腕の少年の顔をしげしげと見る。

「(『ミドリチュー』のアラン・ドロンと云われとるけえのお)」

その少年の美男ぶりは、教職員の間でも話題となっていたのである。少年は、エヴァンジェリスト少年であった。

「(これだけのハンサムは、他では….あ!)

最近、一度だけ見たことがあったのだ。エヴァンジェリスト少年に匹敵する美少年であった。住んでいる牛田で会った中学生である。多分、牛田中学の生徒だ。

「そうなんだよねえ」

牛田の美少年は、標準語を使っていた。広島弁ではなかった。NHKのアナウンサーを思わせるような言葉使いに感じられた。



「(牛田には、あーような子にはおらんかったけえ。『トーキョー』から引っ越してきたんかもしれん)」

その少年は、所謂、ピッカピカの学生服を着ており、年恰好からして、エヴァンジェリスト少年と同じく新中学生(中学1年生)とみた。

「(標準語じゃし、ありゃ、女子生徒にモテるじゃろう)」

広島で標準語を使う者は、どこかハイカラな感じがした時代であった。まだ情報通信が強い時代ではなく、都会と地方との格差は大きく、地方の人間にとって『トーキョー』等の都会は、憧れの的であったのだ。


(続く)


2019年9月29日日曜日

ハブテン少年[その45]




『少年』は、『広島カープ』の『今津光男』内野手が、中日ドラゴンズから移籍し1965年からカープの選手となったものの、1965年も1966年も、当時の他の多くのカープの選手同様、いい打率を残すことはできなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「エヴァ、腕をまっすぐに伸ばせ!」

と云って、パンヤ先生は、エヴァンジェリスト少年が脇から横に上げた腕を叩いた。

「あ、はい…….」

体育の授業だ。徒手体操を習っていたが、自分では、腕を真っ直ぐに伸ばしているつもりであったのだ。

「お前、まっすぐに伸ばせえや!」
「は、はい……」
「あれ、お前、どうして真っ直ぐ伸ばせんのんやあ?」

パンヤ先生は、エヴァンジェリスト少年の腕をとり、不思議そうに回した。

「なんじゃあ、お前、猿腕かあ」

パンヤ先生は、仕方なそうに息を吐いた。

「は?」

怒られるのかと怯えていたが(怒られる覚えはなかったのではあったが)、怒られるようではなかったので、ホッとした。しかし、

「(え?ボクが猿?)」



自分は美少年であるという自覚があったので、不満であった。しかし、それをおくびにも出さない。だって、『ハブテン』少年なのだから。それに、

「(でも、パンヤ先生は、『猿』と云ったのではなく、『サルウデ』と云ったように聞こえたぞ)」

しかし、『サルウデ』が何か知らなかった。


(続く)


2019年9月28日土曜日

ハブテン少年[その44]




『少年』は、『広島カープ』の『苑田聡彦』選手が、1967年には一軍に定着するようになり、また、後には名スカウトとなるものの、1966年まではほとんど2軍暮らしであったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(痛っ!)」

耳の痛みに、エヴァンジェリスト少年は、我に返った。

「エヴァ、次の項目を読め」

パンヤ先生に、耳を掴まれ、上に持ち上げられたのだ。パンヤ先生は、授業中、生徒の席の間を歩き回り、そして、生徒を当てる時に、その生徒の耳を身を掴むのだ。

「はい」

保健の授業である。教科書を読めと云われたのだ。自分の世界に入ってはいたが、その一方で先生の話は聞いてはいたので、戸惑うことはなかった。

「ん….」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」

教科書は立って読むのだが、起ち上がる時に、股間の状況で多少不都合があったのだ。自分が起つ前に、勃っているモノがあった。

「(『クッキー』子さん……)」

授業を聞きながらも、エヴァンジェリスト少年は、『クッキー』子さんとの『夫婦生活』を妄想していた。

「アータ、できたわよ、『クッキー』。さあ、召し上がれ!」

と云って、微笑みを向けてくる『妻』の顔の下が、『くしゃれ緑』になっていた。


「(んぐっ!)」

パンヤ先生に掴まれた耳の痛みに我に返ったものの、股間の『反応』はまだ完全に我に返り切ってはいなかった。

「どうした、早く起て」
「あ、は、は、はい」

脚が机に引っ掛かって起ち難かった風を装い、なんとか起ち上がって、教科書を読んだ。

「よーし、まあいいだろう。でも、エヴァ、お前、今日なんか変だぞ。大丈夫か?」

パンヤ先生は、エヴァンジェリスト少年の挙動を少し不審には思ったようだが、彼の『異変』には気づかなかった。優等生のエヴァンジェリスト少年が、まさか自分の授業の間に、『そんな』妄想をしているとは想像だにしなかったのだ。

「(ちぇ、いいところだったのに)」

しかし、優等生はもう『目覚めて』いたのだ。



「(でも、良かった。女子が別で)」

そうだ。保健体育の授業は、男女別であった。だから、『クッキー』子さんに、今の自分の少し妙な挙動を見られずに済んだのだ。

しかし、『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の1年の男子の保健体育を担当するパンヤ先生は、いい先生ではあったが、怖ろしい先生でもあった。


(続く)


2019年9月27日金曜日

ハブテン少年[その43]




『少年』は、『広島カープ』の『寺岡孝』外野手が、1988年にウエスタン・リーグで首位打者になるものの、完全なるレギュラーになることはなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(『夫婦』!)」

エヴァンジェリスト少年と『クッキー』子さんとのことを『夫婦』と呼んだ同級生の女の子の言葉に、エヴァンジェリスト少年の股間は、強く『反応』した。

「(んぐっ!)」

『夫婦』という言葉は、少年の頭の中に、『ウンギリギッキ』だけではなく、もう一つの言葉であり、画像を喚起させた。『クッキー』子さんの誕生日パーティーに招かている現実は、どこかに飛んで行っていた。

「(『くしゃれ緑』!)」

遠足の為、乗ったヒロデン(広島電鉄)の貸し切りバスの中から、『広島市立皆実小学校』6年10組の児童たちは、見たのだ。

それは、映画館の看板であった。看板には、肌を露わにした女性が描かれていた。


実は、それは、成人映画『くされ縁』の看板であったが、それを見て興奮したヨシタライイノニ君が、その言葉を叫んだ時、『くされ』を『くしゃれ』のように発音してしまい、『縁』を『緑』と見間違えてしまったのだ。

かくして、『くされ縁』が、『くしゃれ緑』となった。

「『くしゃれ緑』!」
「『くしゃれ緑』!」
「『くしゃれ緑』!」

6年10組の男子たちは、休憩時間になると、教室の横にあった体育用具準備室に入り込み、そう叫び合うようになり、エヴァンジェリスト君も、妄想の中の『妻』でありクラス.メイトである『トウキョウ』子さんに軽蔑されないか気にしながらも、体育用具準備室で、『くしゃれ緑』と叫ぶようになっていた。

「(ボクと『クッキー』子さんが、『くしゃれ緑』を!)」

中学生となってもまだ、『くしゃれ緑』が実は『くされ縁』であったことは知らなかったが、それが『男女のこと』なのであろうことは、看板に描かれた肌を露わにした女性の姿から分っていたのだ。



「(『くしゃれ緑』!)」

エヴァンジェリスト少年は、その後の『クッキー』子さんの誕生日パーティーことを覚えていない。

「(『くしゃれ緑』!)」

(続く)



2019年9月26日木曜日

ハブテン少年[その42]




『少年』は、『広島カープ』の『水谷実雄』外野手が、後には首位打者や打点王のタイトルを取る強打者になるものの、1966年は1打席しかないまだまだの選手であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「どしたん?」

同じく『クッキー』子さんの誕生日パーティーに招かれた同級生の女子の一人が、また、エヴァンジェリスト少年に声を掛けた。

「お腹、痛いん?」

両脚をすぼめ、その間に何かを隠すようにしたエヴァンジェリスト少年の様子を見て、腹痛でも起こしたのではないか、と心配してくれたのだ。



「ううん、大丈夫だよ」

エヴァンジェリスト少年は、標準語と云えたものであったかどうかは定かではないが、少なくとも広島弁ではない言葉で返事をした。

「それにしても、あんたら仲ええねえ」

同級生のその女の子は、『クッキー』子さんを見、次にエヴァンジェリスト少年を見て、少し口を尖らせて云った。その子も、エヴァンジェリスト少年を憎からず思っていたのかもしれなかった。

「あんたら、『相合傘』じゃもんねえ」

教室の黒板の裏に、傘マークを書き、その傘の下に、エヴァンジェリスト少年と『クッキー』子さんの名前が並べて描かれた『事件』のことを云っているのだ。


「『リョーオモイ』じゃけえねえ」

同級生のその女の子は、悔し紛れか、言葉を放ち続けた。

「なに云いよるん」

エヴァンジェリスト少年の言葉が、広島弁に戻った。同級生のその女の子は、構わず続ける。

「『夫婦』なんよねえ」

『クッキー』子さんは、赤面していた。

「(んぐっ!)」

エヴァンジェリスト少年は、『反応』してしまった。同級生の女の子の言葉には、どこか淫靡さがあったのだ。

(続く)



2019年9月25日水曜日

ハブテン少年[その41]




『少年』は、『広島カープ』の『横溝桂』選手が、1966年にはオールスター・ゲームに出る等、好打者ではあったものの、3あるを打つことはなったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(んぐっ!)」

エヴァンジェリスト少年は、両脚をすぼめ、その間に何かを隠すようにした。『クッキー』子さんの誕生日パーティに招かれ、『クッキー』作りを母親の教えてもらうという『クッキー』子さんの言葉で妄想の世界に入っていたのだ。

「(『子ども』?.......ボクたちの『子ども』、ボクと『クッキー』子さんの『子ども』!)」

『結婚』した自分と『クッキー』子さんとの間に『子ども』がいて何ら不思議ではない。しかし、どうして『子ども』がいるのか、どうして『子ども』ができたのか、だ。

「(それは、『結婚』したんだから……)」

妄想の中でも広島弁を使わなくなっていた。

「(んぐっ!)」

少年はもう知っていた。『結婚』が何であるのか。好きな女の子との思いを遂げることを『結婚』と思っていたが、その『結婚』の結果、『子ども』が出来ること、そして、どうして(どのようなことをすれば)『子ども』が出来るのか、具体的に細部にわたって知っている訳ではなかったが、少年の股間は、本能的にそれを知っていたのだ。

「(『ウンギリギッキ』だ!)」

『ウンギリギッキ』は、エヴァンジェリスト少年が、『広島市立皆実小学校』の6年生であった時に、彼のクラス10組で流行った『遊び』であった。

6年10組の男子たちは、直ぐに6年10組の教室を出て、教室のすぐ横にある体育用具準備室に行った。そして、そこで、誰かれ構わず、背後から抱きつき、

「ウンギリギッキ!ウンギリギッキ!」

と腰を振った。

抱きつかれた方は、

「ヒェーッ!」

と、喜びに満ちた悲鳴を上げた。







「(んぐっ!)」

エヴァンジェリスト少年は、妄想してはいけないものを妄想してしまった。

(続く)



2019年9月24日火曜日

ハブテン少年[その40]




『少年』は、『広島カープ』の『水谷実雄』外野手が、後には首位打者や打点王のタイトルを取る強打者になるものの、1966年は1打席しかないまだまだの選手であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「え?....うん、有難う!」

遠慮せず手作り『クッキー』を食べるよう声をかけてきてくれた『クッキー』子さんの方に顔を上げ、エヴァンジェリスト少年は、快活に返事した。

「美味しい?」

『クッキー』子さんは、少し上目遣いにエヴァンジェリスト少年に訊いた。

「うん!とても美味しいよ!」

エヴァンジェリスト少年は、気付いていなかったが、言葉が、広島弁ではなくなっていた。

「アタシ、ママに『クッキー』の作り方、教えてもらうの」

『クッキー』子さんのその言葉に、エヴァンジェリスト少年は再び、甘美な妄想の世界に入って行った。

「(そうだ、『クッキー』子さんは、ボクの『妻』として、ボクとボクたちの子どもの為に『クッキー』を作ってくれるんだ!)」

食卓で『クッキー』を待つ自分と自分の子どもの姿が、眼の前に見えていた。が……



「もう少しでできるから、二人ともいい子で待つのよ」

『妻』がそう云って、微笑む。

(続く)



2019年9月23日月曜日

ハブテン少年[その39]




『少年』は、『広島カープ』の『宮川孝雄』外野手が、代打の切り札として活躍はしたものの、死球が多く、球にわざとあたりに行っていると思われるようになったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(アラン・ドロンみたいだわ)」

『クッキー』子さんの母親は、少年を玄関で迎え入れた時に、ハッとしたのであった。娘の誕生日パーティに来た、まだ中学1年の男子生徒だ。

「(この子なのね。『クッキー』子が好きなのは)」

直ぐにそう分った。そして今、台所で、手作り『クッキー』を食べる他の同級生たちの喧騒の中で独り項垂れる少年を前にし、思う。

「(『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンだわ)」

少年は、ただ、同級生たちが使い、自分も使ってきた広島弁の品のなさに打ちのめされていただけであったが、その様子が、『クッキー』子さんの母親には、アラン・ドロン演ずる映画『太陽がいっぱい』の『トム・リプレー』の憂いに重なって見えたのだ。



「(……まあ!やっぱりね)」

『クッキー』子さんの母親は、娘の視線に気付いた。娘が凝視寝ていたのは、手作り『クッキー』を手にしたまま、それを口に運ばない美男の同級生エヴァンジェリスト少年であったのだ。

「エヴァ君、遠慮せずに食べて」

『クッキー』子さんは、エヴァンジェリスト少年に声をかけた。

(続く)



2019年9月22日日曜日

ハブテン少年[その38]




『少年』は、『広島カープ』の『衣笠祥雄』選手が、周知の通り、後に偉大な選手になるものの、入団当初はまだまだな選手であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(恥ずかしい…)」

はしゃぐ同級生の輪の中で、エヴァンジェリスト少年は、独り項垂れていた。『クッキー』子さんの誕生日パーティーに招かれたものの、自らの品のなさを思い知ったのだ。

「(広島弁は、汚い)」

広島弁が汚いかどうかは人の判断によるであろうが、それがその時の、そしてそれ以降、今に到るエヴァンジェリスト少年の正直な思いであったのだ。

「エヴァンジェリスト君って、大人しいのねえ」

『クッキー』子さんの母親が、声を掛けてきた。品のいい少年だと思ったのだ。少年は、自分に品がないことに落ち込んでいたが、その様子が、『クッキー』子さんの母親には、物静かで品のあるように映っていたのだ。

「いえ、そんなことはありません」

少年は、そう答えた。まだ気付いていなかったが、標準語らしき言葉で返していた。普段なら、

「そうようなことないけえ」

と云っていたはずだ。

「『クッキー』子と仲良くしてやってね」

『クッキー』子さんの母親は、少年を凝視めて、そう云ったが、項垂れた少年は、『クッキー』子さんの母親の言葉もよく聞いておらず、その気持ちも汲み取れていなかった。



「(この子ならいいわ)」

品があるだけではなかった。

「(広島にもこんな子いたのね。いえ、他の土地でもこんな子、なかなかいないわ)」

(続く)



2019年9月21日土曜日

ハブテン少年[その37]




『少年』は、『広島カープ』の『白石勝巳』監督が、選手時代、『少年』の住む町(翠町)の隣地の広島市皆実町の出身であったものの、選手としては、カープに移籍する前、長く『少年』が大嫌いな読売ジャイアンツの選手であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「どしたん?」

同じく『クッキー』子さんの誕生日パーティに招かれた同級生の女子の一人が、エヴァンジェリスト少年に声を掛けた。

「頭痛いん?」



『クッキー』子さんのお母さん手作りの『クッキー』というお菓子を食べながら、エヴァンジェリスト少年が、頭を振ったのを見て、心配してくれたのだ。

「(嫌じゃ。広島弁を話す奥さんは嫌じゃ!)」

エヴァンジェリスト少年の耳には、心配してくれる女子の言葉は入っていない。

「大丈夫かいねえ?」
「へ?!」

エヴァンジェリスト少年は、ようやく我に返った。

「ああ、大丈夫じゃけえ」

という言葉を口にした自分のことが、広島弁であることに気付いた。

「(なんじゃ?自分が広島弁じゃ….)」

自己嫌悪で『クッキー』に手を伸ばさなくなった。

「やめんちゃいや!」
「ええじゃないねえ」
「そうようなことしんさんなや」
「なにやっとんならあ」

同級生たちは、コテコテに広島弁を飛ばしまくる。

(続く)