2022年10月31日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その312]

 


「いや、『もみじ饅頭』も『信長』の時代には、なかったんだよ」


と、ビエール少年は、少女『トシエ』に対して、申し訳なさを込めた云い方をしてみせた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出しはしたものの、『浄土真宗』が『東』と『西』とに別れた事情を知らず、ビーエル少年が、元は一つの『本願寺』だった『石山本願寺』を信長が攻撃したことが原因と説明しだした。そして、その『石山本願寺』信長がなかなか攻め切れなかったのは、『毛利輝元』が『石山本願寺』に食料とか武器なんかを提供して味方したからだとも説明をしたのだ。そこで、少女『トシエ』が、『石山本願寺』にお好み焼きも差し入れしたのだろうか、と云い出し、ビエール少年はそれを否定したが、少女『トシエ』は今度は、『もみじ饅頭』を差し入れしたのだろう、と云い出したのだ。


「『もみじ饅頭』も戦後にできたあ、云うん?」


少女『トシエ』は、不満ではあっただろうが、相手が『未来の夫」であることから、抑えた云い方をした。


「いや、『もみじ饅頭』って、宮島に高津という和菓子職人さんがいて、その人が、紅葉谷にある『岩惣』(いわそう)という旅館の女将さんから、宮島にある『もみじ』の名所『紅葉谷』らしい、お土産になるようなお菓子を作って欲しいと頼まれて作ったのが、『もみじ饅頭』の始まりなんだって」


ビエール少年は、広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で父親から聞いた説明をそのままなぞってみせた。


(参照:【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その65]



「ああ、宮島ねえ。あそこ、鹿がおるじゃろ?」

「鹿?ボク、まだ行ったことないんだ」

「ようけえ鹿がおって、近付いてくるけえ、ちょっと怖いんよ。でも、ウチ、よう『バンビ』ちゃん、云われるんじゃけどねえ」

「『バンビ』?鹿の?」

「そりゃそうよね。他に『バンビ』おらんじゃろ。『バンビ』みたいに可愛いいうて、云われるんよ。んふっ」




(続く)




2022年10月30日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その311]

 


「広島のお好み焼きができたのは、戦後らしいんだよ」


と、ビエール少年は、ムキになっている『ボッキ』少年をそれ以上、興奮させることを警戒しながらも、広島のお好み焼きの生い立ちを説明し始めた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出しはしたものの、『浄土真宗』が『東』と『西』とに別れた事情を知らず、ビーエル少年が、元は一つの『本願寺』だった『石山本願寺』を信長が攻撃したことが原因と説明しだした。そして、その『石山本願寺』信長がなかなか攻め切れなかったのは、『毛利輝元』が『石山本願寺』に食料とか武器なんかを提供して味方したからだとも説明をしたのだ。そこで、少女『トシエ』が、『石山本願寺』にお好み焼きも差し入れしたのだろうか、と云い出したことから、『お好み焼き』論争になってきていたのだ。


「何、云いよるんならあ!お好み焼きは、ずっとあるけえ」


『ボッキ』少年の興奮はまだ続いていた。


「うん、お好み焼き自体は、『一銭洋食』っていって、昔からあったみたいなんだけど、今の広島のお好み焼きみたいになったのは、戦後10年くらいしてから、つもり、ボクたちが生れた頃らしいんだよ。うん、だから、『ボッキ』くんが生れた時から、今の広島のお好み焼きはあったんだよ」


お好み焼きの知識は、広島に来てから、父親に連れられ、家族で、今でいう『広島風お好み焼き』を食べた時に、父親から教えられたのであった。


その際に、お好み焼きそのものは、千利休が始めた「麩(ふ)の焼き」という茶菓子がルーツとも云われていることや、その「麩(ふ)の焼き」とは、小麦粉を薄く焼いた生地に、味噌等を塗ったものだとも教えられたが、その時、ビエール少年は、広島のお好み焼き自体の生い立ちを説明するに止めた。


「おお、ワシが生れた時から、お好み焼きはあったけえ」


『ボッキ』少年も、自分の認識がある意味、肯定されたことで落ち着きを取り戻してきた。


「だけど、『毛利輝元』の時代にはまだ、広島のお好み焼きはなかったんだよ」

「なんねえ、『毛利輝元』が、『石山』さんにお好み焼き、差し入れてあげたけえ、『石山』さんは頑張って、『信長』に負けんかったんかあ、思うたんよ」

「お好み焼きはなかったけど、『石山本願寺』は『信長』に負けなかったんだ。でも、戦いが長引いて、『信長』は、正親(おかちまち)天皇に仲裁を頼んで、『石山本願寺』に和睦を求めたんだって」

「『ワボク』?なんか和菓子なん?」

「いや、『和睦』って…」

「ウチ、和菓子なら、『福屋饅頭』もエエけど」

「あ、『小福饅頭』だね」

「差し入れするんなら、やっぱり『もみじ饅頭』がエエじゃろう」

「いや、『和睦』って…」

「ああ、ほうなんねえ!『毛利輝元』が、『石山』さんに差し入れしたんは、『もみじ饅頭』だったんだじゃね!?広島の名物じゃけえ、『信長』も欲しゅうなったんじゃろうねえ」


少女『トシエ』は、得心の笑顔を見せた。




(続く)




2022年10月29日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その310]

 


「いや、その頃、広島のお好み焼きは、まだなかったと思うよ」


と、ビエール少年は、『ボッキ』少年と少女『トシエ』にとって衝撃となる言葉を吐いた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出しはしたものの、『浄土真宗』が『東』と『西』とに別れた事情を知らず、ビーエル少年が、元は一つの『本願寺』だった『石山本願寺』を信長が攻撃したことが原因と説明しだした。そして、その『石山本願寺』信長がなかなか攻め切れなかったのは、『毛利輝元』が『石山本願寺』に食料とか武器なんかを提供して味方したからだとも説明をしたのだ。そこで、少女『トシエ』が、『石山本願寺』にお好み焼きも差し入れしたのだろうか、と云い出したのだ。


「はああん?なんやあ、『広島の』お好み焼きいうんは?」


『ボッキ』少年は、その時点では、疑問を抱きながらも、まだ怒りは見せなかった。


「ん?広島の人たちが食べているお好み焼きのことだけど?」

「んにゃ、よう分らんで。他のとこの人は、お好み焼きは食べんのんか?」

「食べてると思うけど…」

「ほいじゃったら、ワシらが食べとるお好み焼きもなんも、お好み焼きはお好み焼きじゃろうがあ」


『ボッキ』少年は、少しずつ興奮してきていた。


「ああ、広島の人たちが食べているお好み焼きは、ボク、広島に来て初めて食べたんだよ」


ビーエル少年は、広島に来て初めて、父親に連れられ、家族で、今でいう『広島風お好み焼き』を食べ、驚いたのであった。


「ありゃ、東京にゃあ、お好み焼きはなかったんかあ?」

「東京のことは知らないんだけど…」

「そりゃ、『バド』は、『ユーベ』におったんじゃけえ」


少女『トシエ』は、ビエール少年をアメリカから来たと思い込んでいるのであった。


「『宇部』でもお好み焼きは食べたことあるけど、広島のお好み焼きとは全然、違ったんだよ」

「ありゃ、『ユーベ』にもお好み焼き屋さんはあるんねえ!?」


少女『トシエ』は、アメリカ人がお好み焼きを食べる状況を想像することができなかった。


「広島のお好み焼きって、生地を薄くひいて、その上にキャベツやそばやうどんなんかをのせて焼くよね?」

「おお、ワシは肉玉そばが好きじゃけえ」

「ウチは、イカ入りがエエ」

「でも、広島以外のところでは、お好み焼きは、生地にキャベツなんかを入れてかき混ぜてから焼くんだ」

「はああああ???」


『ボッキ』少年は、強く眉間にしわを寄せた。


「かき混ぜんるん?なんか気持ち悪いねえ。ほいでも、『バド』が、そうようなんが好きじゃったら、ウチも好きになるけえ。ウチも作り方覚えて、『バド』に食べたしたげる」


少女『トシエ』は、まだ知らぬお好み焼きをまだ知らぬアメリカで作る自分の姿を想像し、一人、赤面した。




「なんやあ、それー!そうようなん、お好み焼きじゃないけえ!」


ビーエル少年を別にすれば、牛田中学では多分、一番知的で、冷静でもあったであろう『ボッキ』少年が言葉を荒げた。


まだ、お好み焼きに広島風、関西風とがあることが、一般に、特に広島では、知られていない時代であったのだ。


お好み焼きのことになるとムキになる『広島人』を、ビエール少年は、その時、初めて眼の当りにしたのであった。



(続く)




2022年10月28日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その309]

 


「舞妓さんになって、お酌したぎょうかあ?」


と、少女『トシエ』は、ビエール少年に向け、上目遣いに秋波を送った。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと、更に更に、『本屋』、『銀座』へと逸れていっていったが、『東本願寺』、『西本願寺』へと話は戻ってきたが、両寺共、京都にある、ということから、少女『トシエ』は舞妓になってみたい、と云い出していたのだ。


「え?ボ、ボク、まだ中学生だよ…お酒は…」


ビエール少年は、酒に酔ったかのように顔を紅潮させでしまったが、


「『浄土真宗』いうて、なんで、『東本願寺』と『西本願寺』とがあるんかのお?」


という『ボッキ』少年の質問に救われた。


「あ、ああ……ああ、それはね、信長が関係してるんだって」

「信長?織田信長が?」

「うん。『東本願寺』と『西本願寺』とは元々、一つの『本願寺』だったんだって。『石山本願寺』っていうみたいなんだけど、その『石山本願寺』を信長が攻撃したんだよ」

「へ?なんでえや?なんで武士がお寺を攻撃するんや?」

「うーん、はっきりはしてないのかもしれないんだけど、『石山本願寺』のあった場所が重要だったのかもしれないんだって。『石山本願寺』って、今の大阪城の辺りにあったらしいんだ。台地になっている場所で、船で色々な物を運ぶのに適していたり、西の方の他の大名をやっつけに行ったりするのに向いていたみたいなんだ」

「ほいで、なんで、信長に攻撃されて、『本願寺』が『東』と『西』に別れたんや?」

「信長は、『石山本願寺』を攻撃したけど、なかなか勝てなくって、11年も戦いが続いたそうなんだ」

「なんでや、お寺なんか、武士が攻撃したら、簡単に勝てるじゃろうに」

「『毛利輝元』だよ。『毛利輝元』が、瀬戸内海を制覇していた『村上水軍』を味方にして、『石山本願寺』に食料とか武器なんかを提供して味方したからなんだって」

「おお、『毛利輝元』かあ!広島じゃあ!」

「ウチも知っとるよ、『毛利輝元』なら。『毛利輝元』は、その『石山』さんにお好み焼きも差し入れしたんじゃろうねえ」




(続く)




2022年10月27日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その308]

 


「『筑摩書房』いうんは、『筑摩県』の『筑摩』じゃろ?じゃったら、東京の銀座じゃのうて、松本市にあるんじゃないんかあ?」


と、『ボッキ』少年は、『筑摩書房』を持ち出してきたビエール少年の意思を理解したつもりで、そう云った。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと、更に更に、『本屋』、『銀座』へと逸れていっていったが、『ボッキ』少年の言葉で、『筑摩』まで戻ろうとしてきた。


「ああ、確かに、『筑摩書房』の『筑摩』は、『筑摩県』の『筑摩』らしいんだけど、それは、会社を作った人が、信州の『筑摩』地域の『塩尻』出身だったからだと聞いたよ。『塩尻』って松本市の近くなんだって。この『塩尻』や松本市辺りの人は、自分たちのところは『信州』であって『長野』ではない、という感じらしいんだ。だから、『信州』は『長野』かというと、ちょっと難しい感じみたいなんだ」


『ボッキ』少年の言葉を受けて、ビエール少年は、逸れていっていた話をなんとか、『信州』と『長野』との違いについてまで戻した。


しかし、少女『トシエ』は、混乱していた。


「じゃあ、その『ナントカ・ガンジ(願寺)』いう、東にあったり、西にあったりするお寺は、『長野』じゃのうて、松本市にあるいうことなん?」

「だから、『浄土真宗』の『真宗』は、地名の『信州』ではなくって、『真実』の『真』に『宗教』の『宗』と書いて、真の教えのことらしいよ」

「なんか、難しいねえ」

「『真宗』は、『浄土宗』を開いた『法然』という偉いお坊さんから伝えられた教えのことらしいんだよ」


ビエール少年は、広島には浄土真宗の門徒が多いことを父親から聞いた後に、『浄土宗』と『浄土真宗』との関係まで聞いていたのであった。


「へええ、その偉いお坊さんは、広島の人じゃったんじゃね!?」

「へ?」

「違うん?『ほうねえ』いうんは、広島弁じゃろうがいねえ。ほいじゃけえ、広島にゃあ、その『浄土真宗』いうんがようけおるんじゃろ?」


『法然』は、広島出身ではなく隣の岡山出身だったようで近くの出身ではあったが、いずれにしても、少女『トシエ』の言は勿論、間違ってはいた。


「いや、『ほうねえ』じゃなくって『法然』(ほうねん)なんだけど、『法然』がどこの出身だったかは知らないし、『法然』が開いたのは『浄土宗』で、『浄土真宗』を開いたのは『親鸞』というお坊さんなんだ」

「ああ、『親鸞』って聞いたことあるよ」

「ウチは、知んらん」

「『親鸞』がどこの出身かは知らないんだけど、『東本願寺』も『西本願寺』もあるのは、京都だよ」

「ええー!京都なん!ええねえ、京都。ウチ、京都で舞妓さんになってみたいけえ」


少女『トシエ』の眼から、明らかに輝きが放たれた。




(続く)




2022年10月26日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その307]

 


「『銀座』って、元々は、銀貨なんかを作っていた場所のことだったらしいんだ」


と、ビエール少年が、『ボッキ』少年と少女『トシエ』に『銀座』という地名の由来の説明をした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと、更に更に、『本屋』、『銀座』へと逸れていっていき、ビエール少年は、『銀座』は東京以外の地にも繁華街等にその名前があることを説明していた。


「だから、『金座街』って、広島で金貨なんかを作っていた場所なのかなあ?」

「へええ、ほうじゃったん!?『バド』は、広島のことも、ウチよりよう知っとるんじゃねえ」


少女『トシエ』は、鼻を上向きに上下させ、誰に対してというものではなかったが、未来の『夫』と思う少年の知性を誇るそぶりを見せたが、残念ながら、未来の『夫』の解釈は間違っていた。


広島市の『金座街』は、金貨を作っていた場所だったのではなく、東京の『銀座』に負けないようにという意味を込めた名前だったのである。


「で、その『金座街』に『コーブンカン』(廣文館)っていう本屋さんがあるんだね?」

「おお、そうなんよ。『金座街』にゃあ、古本屋さんもありよって、お父ちゃんはそこにも入るんじゃけど、なんか臭いところじゃけえ、ウチ、好かんのんよ。『廣文館』の方がええけえ」


『金座街』には、『アカデミイ書店』という古本屋があるが、そこに限らず、古本屋には古本独特の臭いがあり、それは仕方のないこと、というよりもむしろ、本好き、特に古本好きな人間にとっては、好ましい匂いであるかもしれないが、他の面では大人びてきていたとはいえ、まだ中学一年の少女『トシエ』にその匂いを感じることはできなかったのだろう。


「『筑摩書房』は、本屋さんといっても、『コーブンカン』(廣文館)なんかとは違うんだ。街で本を売っている書店ではなくって、本を出版している会社なんだよ」

「おお!『岩波書店』と一緒じゃのお!『岩波書店』も『書店』というても街の本屋さんじゃのうて、『岩波文庫』なんかを出しとる会社じゃけえ。お兄ちゃんが、よう読んどるけえ」


ビエール少年には劣るとはいえ小学校時代、頭の良さで知られた『ボッキ』少年は、本屋に関するビエール少年の説明を十分に理解した。


「『筑摩書房』は、文庫は出してないみたいだけど、『太宰治』なんかの全集を出しているんだ」


『筑摩書房』が、『ちくま文庫』を出すようになるのは、まだ先、1985年のことであった。


「ああ、『太宰治』いうたら、『走れメロス』じゃろ!ワシ、読んだことあるけえ」

「その『チクワなんとか』いう本屋さんは、『銀座』にあるん?『バド』と一緒に、『走るメロン』を買いに行こうかいねえ」


『太宰治』よりも、ビエール少年と一緒に行動することの方に興味がある少女『トシエ』は、




(続く)




2022年10月25日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その306]

 


「『金座街』?『銀座』じゃないの?」


と、ビエール少年が、眉間にしわを寄せ、少女『トシエ』にそう訊いた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと、更に更に、『本屋』、『銀座』へと逸れていっていた。


「ええ?『銀座』いうたら東京じゃないん?」

「うん、東京にあるけど…」

「『銀座』いうたら、石原裕次郎じゃけえ、知っとるんよ」

「石原裕次郎?」

「『♪ここ~ろのそこ~までえ』よおねえ」


少女『トシエ』が歌い出した。


「ああ」

「お父ちゃんがよう歌うとるけえ。あれ、『銀座の恋の物語』いうんじゃろ?」

「トンミーくんは、東京で『銀座』に行ったことあるん?」


東京に憧れを持つ『ボッキ』少年が、口を挟んできた。


「いや、ないよ」

「そりゃ、そうじゃろう。『バド』は、『ユーベ』におったんじゃけえ」

「『銀天街』なら、よく行ったけど。本通りみたいに、屋根のある商店街なんだ」

「へええ、『ユーベ』の『ギンテンガーイ』も一緒に行きたいねえ。腕組もうかねえ。『ギンテンガーイの恋の物語』、ふふ」


少女『トシエ』が、中学一年の女子生徒らしくない、『女』の視線をビエール少年に向けた。


「宇部には『銀座』はなかったけど、『銀座』って、東京だけじゃなくって、日本のあちこちに、繁華街なんかの名前としてあるらしいよ」

「広島にはないのお」


広島にも、『流川銀座』と、『銀座』の名の付く商店街があるが、『大人』の街『流川』のことを、当時の『ボッキ』少年が知らないのも無理はなかった。



(続く)




2022年10月24日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その305]

 


「でもね、『筑摩書房』は、『セキゼンカン』のような本屋さんじゃないんだ」


と、ビエール少年は、自分の想像を超えた少女『トシエ』の勘違いに戸惑いながら、『筑摩県』の説明をしようとした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていたことから、話は『筑摩県』、『筑摩書房』へと逸れていっていた。


「ほいじゃったら、『金正堂』みたいなん?」

「は?」

「そうじゃった。『バド』は、本通りは、まだよう知らんかったんよね。でも、福屋は行ったことあるんじゃろ?」


『金正堂』は、2011年まで広島市の本通りにあった書店であった。


「うん、広島に来た日に福屋の食堂に行ったよ。帰りの『小福饅頭』も買ったんだ。とっても美味しかったなあ」

「『幸福饅頭』?」

「ああ、ボクも、『幸福饅頭』かと思ったんだけど、小さい『幸福』の『福』と書いて『小福饅頭』なんだって。『七宝つなぎ』に『三つ引』のマークがついてるよね?」

「『シッポウ・ツナギ』?『ミツヒキ』?」

「うん、『福屋』のマークだよ」

「ああ、『福屋饅頭』のことねえ」


少女『トシエ』が、『福屋』マークの謂れを知らないのも無理はなかった。今も昔も、その謂れをしる広島人は多くはないであろう。


「うん、『福屋饅頭』という名前だと思っている人が多いらしいんだけど、本当は『小福饅頭』なんだって」



(参照:【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その68]



「ふうんん、よう分からんけど、今度、一緒に『福屋饅頭』買いに行こうやあ。美味しいけえ、『あ~ん』したげる。んふ」




「いや、『福屋饅頭』じゃなくって…」

「福屋に行ったんじゃったら、福屋、出たところに『フタバ図書』いう本屋さんがあったじゃろ?」


『フタバ図書』は、後に(2021年に)、長年に亘る粉飾決算が発覚し、経営破綻する書店である。


「ああ、そういえば、本屋さんを見たような気がするけど」

「福屋からちょっと行った所の『金座街』に『廣文館』もあったじゃろ?」



(続く)




2022年10月23日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その304]

 


「「いや、『ちくわ』じゃなくって、『筑摩』(ちくま)だよ」


と、ビエール少年は、自分の想像を超えた少女『トシエ』の勘違いに戸惑いながら、『筑摩県』の説明をしようとした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきた。しかし、少女『トシエ』が、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と勘違いした誤解を解こうと、ビエール少年は、『長野県』と『信州』との違い、というか、関係性を説明しようとしていた。


「『筑摩書房』の『筑摩』なんだ」

「え?しょぼくれた『ちくわ』?」

「『ちくわ』ではなく、『チ・ク・マ』で、しょぼくれたんじゃなくって、『書房』(ショボウ)だよ。『書房』って、『書く』に『房』(フサ)と書くんだけど、書斎とか書店、つまり、本屋さんのことなんだよ。『房』(フサ)って、部屋のことだからね」

「ああ、『積善館』みたいなんじゃね?」

「『セキゼンカン』?」

「本通りにあるじゃろうがねえ」

「ああ、本通りね。まだ、あまり行ったことがないんだ」

「そうじゃね。『バド』はまだ広島に来たばっかりじゃけえね。『積善館』は、本通りにある有名な本屋さんよおね」


『積善館』は、少女『トシエ』の云う通り、当時(1967年である)、というか、2003年まで、広島市の繁華街『本通り』にあった有名書店であった。


「ああ、そうなんだねえ。本は大好きだから、今度、行ってみたいな」

「んもう、ウチが連れてったげるけえ。ふふ」


と、少女『トシエ』は、自分とビエール少年が手を繋いで『本通り』を歩き、『積善館』に入る姿を妄想して、恥じらうこともなく赤面した。




(続く)




2022年10月22日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その303]

 


「え?長野に?」


と、ビエール少年は、少女『トシエ』の言葉に呆気にとられ、少しく口を開けたままにした。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せ、『ボッキ』少年も『東本願寺』、『西本願寺』を持ち出してきたが、少女『トシエ』は、何故か、『西本願寺』を長野県にあるお寺と思ったのである。


「その『東なんとか』とか『西なんとか』いうお寺は、長野あるんじゃろ?」

「いや、違うけど、どうして、長野って?」

「じゃけえ、『浄土シンシュー』云うたじゃないねえ」

「え?云ったけど…」

「『シンシュー』いうたら、長野県のことじゃろ?ウチでも、そのくらいのこと知っとるけえ」

「あ、そういうことだったんだね。『浄土真宗』の『シンシュー』は、地名の『信州』のことじゃないんだ。それにね、『信州』は長野県のことか、っていうと、そこは難しいみたいなんだ」

「は?『信州』は、長野県じゃないん?」

「長野県でなくはないんだけど…あ、そう、『安芸国』(あきのくに)って、広島県だけど、広島県って『安芸国』ではないのとちょっと似てるかなあ」

「うん、広島市は『安芸国』にあるけど、福山市は『備後国』(びんごのくに)だったんだよね」


『ボッキ』少年が、負けじと自らの知識を披露した。


「そうなんだ。長野県は大体が、『信濃国』(しなののくに)ではあったらしいんだけど、『廃藩置県』の後、つまり、明治時代になって、『藩』を止めて『県』にした時に、長野市なんかがある今の長野県の『上』の方は、『長野県』になったけど、松本市がある『下』の方は、『筑摩県』になったんだって」

「ふううん、松本市は、『ちくわ』が名物なん?」





(続く)




2022年10月21日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その302]

 


「いや、柔道じゃないけえ」


と、『ボッキ』少年の顔は、『浄土真宗』の『浄土』を『柔道』と聞き違えた少女『トシエ』に対して、やや強い言葉を投げかけた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年が、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたことから、広島には『浄土真宗』の家が多いらしい、とビエール少年が博識ぶりを見せたが、少女『トシエ』は、『浄土』を『柔道』と聞き違えたのである。


「ほうよねえ。柔道でお経唱えんよねえ。おかしい思うたんよ」


と、少女『トシエ』も納得はした。




「『柔道』じゃのうて、『浄土』じゃ」

「なんねえ、『ジョード』いうんは?」

「それはあ…」


少女『トシエ』のツッコミに『ボッキ』少年は、たじろいでしまったが、


「良くは知らないんだけど、仏様のいるところだったと思うよ」


と、ビエール少年が、友人を救おうとした訳ではなかったが、友人の代りに、少女『トシエ』の疑問に答えた。


「『浄土』の『浄』は、洗うという意味の『洗浄』の『浄』で、『きれい』ということだたと思う。『浄土』の『土」は、『つち』で、『土地』とか『くに』とかいう意味だと思う。だから、『浄土』って、きれいな、清らかな場所のことなんだと思うよ」

「ああ、仏さんがおるけえ、清らかな場所なんじゃね」

「東とか西とかじゃろ?」


と、『ボッキ』少年が、失地回復を目指して、言葉を挟んだ。


「え?仏さんは、東や西におるんねえ?南と北にはおらんのん?」

「いや、仏様のいる所の話じゃないけえ。『浄土真宗』いうんは、『東』と『西』とがあるいうて、お父ちゃんが云うとった」

「ああ、そうみたいだね。『東本願寺』と『西本願寺』とがあるらしいね」

「え?なんねえ、それ?」

「『東本願寺』と『西本願寺』というのは、お寺だよ」

「ああ、長野にあるお寺なんじゃね」



(続く)




2022年10月20日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その301]

 


「歌?歌じゃないで、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は」


と、『ボッキ』少年の顔は、知力に自信があった自分を上回るビエール少年でも知らないことがあることに、少し安心ながら、そう云った。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていた。しかし、『ボッキ』少年は、自分はキリスト教の知識のない理由として、お経の一節、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』を唱えたのであったが、ビエール少年には、それが歌のように聞こえたのであった。


「うん、歌だとしたら、すっごく変な歌だよね」

「『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は、お経じゃけえ」

「ああ、お経なんだ」

「『バド』は、『キリスト』さんじゃけえ、お経は知らんよおね」

「『ナンミョーホーレンゲッキョー』なら知ってるよ」


トンミー家は、『日蓮宗』なので、『南妙法蓮華経』は知っていたのだ。


「ああ、『ナンミョーホーレンゲッキョー』も聞いたことがあるで」

「なんか、『ホーホケキョー』みたいじゃねえ」

「うん、ウグイスの鳴き声は、本当はなんて云ってるのか分らないけど、有難い仏教の『法華経』に似ていると思った人がいて、いつからか、みんな、ウグイスの鳴き声を『ホーホケキョー』と云うようになったんだと思うよ」




「『バド』は、『キリスト』さんだけじゃのうて、仏教のこともよう知っとるんじゃねえ」

「いや、そんなに良くは知らないよ。『ナ~ムア~ミダ~ンブー』だって知らなかったし。でも、広島は、浄土真宗の家が多いらしいから、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』は浄土真宗のお経なのかなあ」

「え?広島は、柔道しとっての人が多かったんかいねえ?」


少女『トシエ』は、仏教の宗派に関する知識を持ち合わせていなかったのである。



(続く)




2022年10月19日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その300]

 


「へええ、ラーメンに乗せて食べるんか、その『ホス』なんとかいうんは」


と、少女『トシエ』に質問した『ボッキ』少年の顔は、間抜け顔になっていた。


1967年4月のある土曜日、広島市立牛田中学を出た1年X組のビエール少年と『ボッキ』少年が、『ハナタバ』少年と、後で『秘密の入口』で会おう、と別れたところであった。いつからか、ビエール少年と『ボッキ』少年の背後にいた少女『トシエ』が、『秘密』という言葉を捉え、何の『秘密』か追求していたところ、遠りがかった赤い髪の若い外国人女性が、『バド』と呼ばれているビエール少年に対して、アメリカ人なのかと訊き、ビエール少年と英語での会話を交わしたのを見て、『ボッキ』少年と少女『トシエ』が、ビエール少年の英語力に感嘆していたことから、ビエール少年が見ているというNHK教育テレビの『テレビ英語会話』話題へとなっていた。そして、更に、少女『トシエ』が、奥さんが英語喋れない訳にはいかないから、自分も『テレビ英語会話』見るようにすると云い出し、少女の妄想は、ビエール少年の妻となった自分が、『整体拝受』の際の『ホスチア』だって作るかもしれない、とまで拡がっていっていたのだ。


「アンタもアタマええ思うとったが、アホじゃねえ。やっぱり『バド』には敵わんのじゃねえ。ラーメンじゃのうて『アーメン』よお」


と、少女『トシエ』は、小学生時代、アタマの良かった『ボッキ』少年に少し好意を抱いた自分を恥じた。


「『アメ』?その『ホス』なんとかいうんは、『アメ』と一緒に食べるん?」




「『アメ』じゃのうて『アーメン』じゃけえ。よう聞きんさいや。『アーメン』は、キリストさんよおね」

「え?『アーメン』は、『栗栖』(くりす)さんなん?翠町に、お母ちゃんの知り合いの『栗栖』さんがおるで。『栗栖』さんが、『アメ』好きなんか?」

「分からんこと云うんもいい加減にしんさいよ。十字架の『キリスト』さんよおね」

「おお!『イエース』!判ったで、『イエース』の『キリスト』じゃの。その『キリスト』が、『アメ』好きじゃったんか?」


どちらかと云えば、優等生タイプの『ボッキ』少年が、珍しくダジャレを云った。


「知らんよおね。ウチ、『キリスト』さんに会うたことないけえ」

「ワシも会うたことないで。ウチは、『ナ~ムア~ミダ~ンブー』じゃけえ」

「え?それ、何の歌?」


と、それまで、『ボッキ』少年と少女『トシエ』の会話をあまり興味なさげに聞くだであったビエール少年が、『ボッキ』少年の聞き慣れない言葉というか歌のようなものに関心を示した。



(続く)