2020年4月30日木曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その3]






「しかし、銀行は、財務比率を使った統計モデルのスコアリングで信用格付をするようになってしまったのだ。そのことが失敗であることは既に明らかだが、未だにスコアリングで融資をしている銀行は少なくないのだ」

ROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを、リビングルームのテーブルに置いたビエール・トンミー氏は、『新型コロナウイルス』の状況を伝えるニュースを放送しているテレビに眼は向けているものの、意識は、どこか他のところに飛んで行っていた。

「田舎町では、地元の金融機関は、スコアリングなんかに頼る必要はないのだ。統計的に90%当たる、ということは、裏返せば、10%は外れるということだ。しかし、田舎では、商店数、企業数は限られ、地元金融機関は、各商店や各企業の事情を熟知している。あの店の長男は、東京の大学に行って地元に帰ってくるつもりは全くない、とかな」

夫の横顔に見惚れている妻は、都会出身なので田舎町のことはよく知らない為、昨秋(2019年の秋)、夫ともに訪れた秋田の田舎町をイメージしてみた。



「そんな環境下では、スコアリングなんて不要だ。、各商店や各企業の事情を熟知していれば、信用度を100%把握できるのに、スコアリングでは90%になってしまうかもしれないんだからな。経験則に基づく財務分析だって不要かもしれないんだ」

妻は、夫が云っていることはよく分らなかったが、自分が見込んだ通り、夫が容姿だけではなく、頭脳も優れていることは判り…….

「アータあ、凄いわあ……」

と、ソファの隣に座る夫の脚に両手を置き、撫でた。

「んぐっ!」

ビエール・トンミー氏は、思わず『反応』した。


(続く)



2020年4月29日水曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その2]






「しかしだ、多くのマスコミは、ただ発表された感染者数が増えたとか減ったとか、東京の感染者数が、100人を超えた、100人を割った、といったことしか云わん。馬鹿なのか!」

リビングルームで、ソファに座り、テレビでニュースを見ているビエール・トンミー氏は、妻が横に座っているのも忘れ、吠えた。

「東京の感染者数が圧倒的に多いと思われているが、それも疑問だ。確かに、東京の感染者数が圧倒的に多いだろうが、当り前じゃないか。人口が圧倒的に多いんだからな。しかし、検査数比や人口比で云うと本当に多いのか?」

妻は、テレビではなく、吠える夫の横顔を愛おしそうに見ている。

「だが、そう云うと、今度は、ただ単純に人口比では、どこそこの県の感染率の方が高い、とか、感染者数の増加率は、どこそこの県の方が高い、なんてことを云い出す奴が出てくるだろう。愚か者めが!」

ビエール・トンミー氏は、眼の前のテーブルに、妻が入れてくれた紅茶があることも、怒りで忘れたかのようだ。

「仮にだ、仮にある県の感染者数が、ある日、1人だったとし、その翌日に3人になったら、3倍に増えた、ということになるんだ。それにどれだけの意味があるというのか!」


紅茶があることを忘れていなかったビエール・トンミー氏は、、ROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを手に取り、ゆっくりと紅茶を喉に流し込んだ。

「『持続化給付金』だって、売上が前年比で半減以上したことが条件らしいが、創業間もない企業や個人事業主は、比較対象となる前年の売上がなく、給付対象になっていない。今、そういったケースへの対応を検討するとなっているとも聞くが、そんなことハナから判っていることだ。最初から検討すべきじゃないかっ!」

まだ手に持ったままのティー・カップにビエール・トンミー氏の唾が飛び込んだ。

「実際、エヴァの奴は、今年から本格的に研修講師をしようとしていたが、今のご時世、研修なんてどこでもしなくなっている。アイツは商売上がったりだ。しかし、比較対象となる前年の売上(収入)がないから『持続化給付金』なんてもらえやしない」

本当のところ、友人ではあるものの、エヴァンジェリスト氏のことなんかどうでも良かったが、論を組立て上、事例が欲しく、友人の名前を出した。

「『比率』というものには限界があるんだ。分母や分子が、ゼロであるとか極めて小さい等の異常値があると、『比率』は意味を為さない。だから、財務分析なんかする場合、参照しようとする比率の分母が利益を使っているようなものは要注意だ。利益がゼロであったり、マイナスになったり、つまり利益ではなく、損失になってしまうと、分析不能なんだ。それにだ、中小企業の財務分析にあたっては、比率分析は余りあてにならないんだ。総資産や売上、利益等の数値が小さいから、『比率』で見ると、数値が大きく、しかも、急に変動し易いんだ」


(続く)



2020年4月28日火曜日

【ビエール、怒る!】その数字に何の意味があるっ!?[その1]




「くだらん!」

吐き捨てるような夫の言葉に、マダム・トンミーは、一瞬、足を止めた。

「全くもってくだらん!」

夫は、リビングルームで、ソファに座り、テレビでニュースを見ている。

「どうしたの?紅茶を入れたわ」

マダム・トンミーは、紅茶のポットとカップ&ソーサーを載せたトレイをリビングルームのテーブルに置いた。

「ああ、有難う」

マダム・トンミーは、ポットの紅茶をティー・カップに注ぐ。

「うーん、紅茶は、やっぱりフォートナム・メイソンだな」

Fortnum & Mason(フォートナム&メイソン)のロイヤルブレンドだ。ティー・ポットとティー・カップは、ROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーだ。いずれも高級ブランドだ。その良さが本当にわかっているかどうかは怪しいが、夫は、何事も形から入るのだ。

「増えたのだの、減ったのだの、その数字に何の意味があるというのだ!」

紅茶を一口啜ると、夫は、まだ怒り出した。

「どうしたの?」

夫の横に座ったマダム・トンミーは、テレビに向って怒っている夫の横顔を見る。

「(少し老けたけど、でも、素敵だわ)」

夫に初めて会った時のことを思い出す。マダム・トンミーは、夫と同じ会社のマーケティング部にいたが、使っていたシステムの具合がおかしく、システム部から夫が確認に来てくれたのだった。

「(あの時、真剣なアータの横顔に、胸がキュンとしたの)」

夫は、マダム・トンミーの横に座り、PCの画面を凝視し、キーボードをカタカタと鳴らしていたのだ。

「発表された感染者数が増えても減っても、本当に増えたのか、減ったのか分らんぞ!」

夫は、『新型コロナウイルス』の状況を伝えるニュースを見ているのだ。

「そもそも母数が明確になっていないんだ。検査数が明らかではないのに、増えたも減ったもないぞ!」

夫の口から唾が飛び、テーブルの上の紅茶の入ったカップに入った。

「陽性の数は、検査数が増えれば増えるだろうし、減れば減るだろうよ。しかも、感染の疑いがあれば即、検査され、陽性、陰性が分かるインフルエンザと違って、なかなか検査もしてもらえないんだから、発表される感染者数は、その日、もしくはその日と余り変らない時期に感染した人の数ではなく、あくまでその日に感染が判明した人の数に過ぎないんだ」




一息ついた夫は、また紅茶を啜った。

「他の国と比べて、感染者数が少ない、ということも、あてにはならん!検査数が、他の国より圧倒的に少ないようだからな」


(続く)


2020年4月27日月曜日

【ビエール、怒る!】何が、『社会的』距離だ![その4=最終回]







「君は、寝ても起きてもパジャマを着ているだろう」

エヴァンジェリスト氏は、FaceTimeの画面に映る友人ビエール・トンミー氏の着衣に視線を落とし、ビエール・トンミー氏は、そのパジャマを掴んで自慢げに云い放った。

「ああ、せやけど、これ、パジャマには見えへんで」
「ああ、だから君は、外出する時もパジャマだ」


[参照]


「ああ、その通りや。誰もパジャマとは気付かへん」
「しかも、そのパジャマのズボンは『社会の窓』付でないと君は困るんだろ?」




「それがどないした云うねん?」
「君はおしっこが近いから、君のパジャマのズボンの『社会の窓』はいつも開けっ放しだ」
「なんや、見てんのかいな。開けとかんと間に合わんかもしれへんからな」
「ゴミ出しの時も開けっ放しだ」
「うーん、気にしてへんけど、多分、そやろなあ」
「それが問題なんだ。君の場合、『社会の窓』は、『社会の窓』ではなく『Social Window』なんだぞ」
「何、云うてんねん」
「『社会の窓』の奥には、マムシというか『原宿の凶器』が潜んでいる。なのに、『Social Window』を開けっ放しにするなんて」
「今は、『凶器』ではなく『小器』やけどな」




「いや、マダムたちにとっては今でもまだ十分『凶器』だ。だから、君の場合、『社会の窓』は、マダムたちとの繋がりを齎らす、或いは、マダムたちとの『親睦』を深める、そう『Social』な『窓』なんだ!『Social Window』だ!」
「え!そうなんかいなあ!」
「だから、マダムたちは、ゴミ出しの時、君に、君の『Social Window』に惹きつけられてくるのだ」
「そう云われれば、思い当たることがあるわ。近所の奥さんたち、ゴミをこぼして、ワテの方に、ワテの股間の方に近づいてきたりすることがようあるわ。ありゃ、わざとやな」
「やはりそうであったか。だから、君が『Social Window』を保つことは難しいのだ」
「おお、許してえな、ご婦人方よ!」





詫びながらも満面の笑みを浮かべたビエール・トンミー氏がFaceTimeを切った後、エヴァンジェリスト氏が呟いた。

「ふん!マダムたちは、アイツのパジャマの異臭に立ち眩みをしただけであろうに」


(おしまい)




2020年4月26日日曜日

【ビエール、怒る!】何が、『社会的』距離だ![その3]







「へ?重大任務?....はて、『高等遊民』のワテに任務なんてもん、あったかいなあ?」

と、iPhone SE(初代)のFaceTimeの画面で小鳥のように小首を傾げたビエール・トンミー氏に、エヴァンジェリスト氏が、口の端を歪めて、勿体をつけた云い方をする。

「火水はお休みだろうが、その他の曜日は任務があることを知っているぞ」
「んん?...ああ、ゴミ出しのことかないな」
「そうだ。君は、ゴミ集積所で、近所のマダムたちと交流しているだろう」
「ど、ど、どうして、ゴミ出しのことを知ってんねん?」
「ゴミ出しを君が楽しみにしていることなんか、とっくに世界中に知れ渡っているさ、『プロの旅人』でな」




「ゴミ出しはホンマやが、マダムとの交流なんて、『プロの旅人』が勝手な妄想で書いただけや」
「マダムたちと『Social Distance』を保つのは難しいだろう」
「ゴミ出しは、純粋な『任務』やねん。邪な気持ちはあらへん」
「しかし、君の『Social Window』に、マダムたちは惹きつけられてしまっているだろう」
「はあ、また妙ちくりんなこと云い出しまんなあ。『Social Window』って、『社会の窓』のことかいな」




「それも正しい訳とは云い難いなあ」
「あんなあ、『社会の窓』はなあ、元々、英語やないんやで。むかーしな、NHKのラジオで『インフォメーションアワー・社会の窓』ってのがあってな。社会問題の裏側を探る、つまり、普段見れへんところが見える、っちゅうことから来てるらしいんやで」
「ほー、詳しいなあ。まるでググったような説明だな」
「その『ググる』っちゅうような云い方、やめんかいな。気持ち悪いで」
「しかしだなあ、君の『社会の窓』は、『Social Window』なんだ」
「訳分らんことぬかすな!」


(続く)



2020年4月25日土曜日

【ビエール、怒る!】何が、『社会的』距離だ![その2]







「はああん、君は、『ハンシャ』になったんだな」

FaceTime(ビデオ通話)で怒りをぶつけてきた友人のビエール・トンミー氏に対し、エヴァンジェリスト氏が挑戦的な言葉で返した。

「何やて?ワテは、『高等遊民』や。なーんも販売なんかせえへんで」
「販売会社の『販社』じゃないぞ。『反社会的勢力』の『反社』だ」
「いつもゆうてるが、言葉を安易に短うするのは止めんかい!」
「販売会社の『販社だって、短くしてるだろうに」
「ああ、それはええねん。もう辞書にも載ってる言葉やさかいにな」
「じゃあ、云い直そう。君は、『反社』になったんだな」
「こりゃあ!ええ加減なことぬかすと、どついたるでえ!」


「ほら、やっぱり『反社』だ」
「ほな、ワテと距離を置くんかいな?」
「残念だが仕方あるまい」
「『社会的距離』を置く云うんか?」
「『社会的距離』どころか、君とボクとは今、何キロも離れたところに住んでいるではないか。まあ、3ヶ月に1回くらい会ってはいるが、今はそれも自粛だな。共に老人だから、気を付けないとな」
「『社会的距離』どころか、やてえ。何やその『社会的距離』っちゅうんは?」
「君ともあろうものが『社会的距離』を知らぬはずがないだろうに。『Social Distance』のことではないか」
「そないなこと、知ってまんがな。せやのうて、『Social Distance』のどこが、『社会的距離』やねん、云うてんのや!」
「はああ?」
「『社会的』っちゅうのは、どないな意味やねん?」
「うーん…他人(ヒト)との間の距離のことだ。2mは空けろ、と云うことだな」
「それの何が『社会的』やねん?!」
「いやまあ、そのお…」
「ほれみい。『Social Distance』のことを『社会的距離』と訳すのは、おかしいやないけ!スカタンどもは、『Social』とつくと何でもかんでも『社会的』と訳すんや。『Social』には、『他人との関係にあって』、とか、『他人との親睦』というか『他人との交り』といった意味合いもあんんねん。せやのに、『社会的距離』なんて、意味不明やで」
「まあ、それはそうだなあ。『Social Distance』の『Social』は、確かに『他人との関係を持つにあたって』くらいの意味合いであるなあ」
「おお、それでこそ、OK牧場大学の大学院修了のフランス文学修士や」
「君こそ、さすがだ。『社会的距離』を問題と捉えるなんてな。『Social Distance』って、ただ『他人との距離』って云えばいいのだ
「おお、そやそや。ワテもそう思うで」
「ところで、君は、『Social Distance』を保っているのか?」
「守るも守らんもないでえ。ワテは家で自主隔離中なんや」
「しかし、君には重大任務があり、家の外に出ているだろう」
「え?」


(続く)


2020年4月24日金曜日

【ビエール、怒る!】何が、『社会的』距離だ![その1]




「おいおい、どういうことやねん!?」

エヴァンジェリスト氏のiPhone SEに、FaceTime(ビデオ通話)で連絡してきたビエール・トンミー氏が、またしても怒っている。

「なんだ?まだ『給付金』のことで怒っているのか?」
「せやない。けど、なんやそれは?」
「はあ?」
「なんや、君のことや」
「ああ、今日、散髪したんだ。散髪屋は休業対象から外れたからな」





「それでますます人相が悪うなったんかいな」
「じゃ、これでどうだ?」





「少しはマシやが、まだあかん」
「仕方ないなあ、ではこれで」




「気持ち悪いでえ。それに、人相だけのことやないで。なんか、君の部屋、おかしいのとちゃうか」
「そうかあ?『社会的』には問題ないと思うんだけどなあ」
「それや!!」
「はああ?何が、それや、なんだ?」
「『社会的』には問題ない、ってどういうことだ?」
「それはまあ、『社会的』には問題ない、ということだけど」
「回答になってへんで。天下のOK牧場大学大学院のフランス文学修士らしゅうない」
「面倒臭いなあ。要するに、何を怒っているんだ?」
「ワテは、『社会的』が気に入らへんねん!」


(続く)


2020年4月23日木曜日

【ビエール、怒る!】お前たち、年金受給者のことを知っているのか![後編]






「君って奴は……持つべきは、やはり友だな。広島皆実高校1年7ホーム以来、50年の付き合いだもんな」

『Google Duo』で友人のビエール・トンミー氏と会話するエヴァンジェリスト氏の声は、涙声のようにも聞こえた。

「広島皆実高校、なんやそれは?ワテは知らへんで。ワテは、広島市立牛田中学を卒業後、謎の5年間を経て、ハンカチ大学商学部に入学したんや」
「君は照れ屋さんだなあ。『給付金』のことで、『年金受給者の収入は減らないのに』なんてことを云う馬鹿が出て来たから、ボクに代って怒ってくれたんだな」
「いやまあ、君のことも思わへんこともなかったけどな」
「しかしなあ、君の場合は、年金受給者で収入は減らないのだろ?」
「うっ…」
「君は、『高等遊民』だからなあ」
「『無用の用』やねん、ワテは」
「心配するな。君に『給付金』をもらう資格がないとは思ってないぞ」
「おお、そうでっか。君はやっぱり友だちやなあ」
「『給付金』もらったら何に使うのだ?ボクは生活費だ。ほぼ壊れている冷蔵庫を買い換えるかもしれん」
「うーん、そやなあ、愛する妻と旅行にでも行こか、思うてんねん。まあ、今の『コロナ騒動』が落ち着いてからやかけどな」
「そんな待つ必要ないぞ。『給付金』を受給したら、直ぐに旅行に行けばいい」


「まだ外出自粛せなあかんやろ」
「そうでもないらしい。『3密でなければ、外出していい』なんてことを、確か、『エンピツしんちゃん』だったかなあ、云ってたぞ」
「え、そうなんか?」
「ああ、そうだ。『エンピツしんちゃん』の奥さんみたいに、君たち夫婦も、『USA』なら行っても大丈夫だろう。『ドクトル・トリトン』のセミナー付のツアーがいいだろう」
「おお、おおきに!貴重な情報や。君はほんまもんの友だちや」

感激したビエール・トンミー氏が『Google Duo』を切った後、エヴァンジェリスト氏が呟いた。

「大丈夫だろう。アイツは変態だが、奥さんは美人で聡明だから、『USA』には行くまい。アイツは、ただ一人の友人だ。先に逝かれては困るからなあ」


(おしまい)



2020年4月22日水曜日

【ビエール、怒る!】お前たち、年金受給者のことを知っているのか![中編]






「『給付金』は、『年金受給者』でももらえると思うがなあ」

何故か『Google Duo』の音声通話で怒りをぶつけてきたしてきた友人のビーエル・トンミー氏に、エヴァンジェリスト氏は、冷静な言葉で対応する。

「このドアホが!何が、『年金受給者でももらえる』や!『給付金』の元は、ワテらが払った税金や」
「ああ、『手を挙げた者に支給する』ってことに怒っているのか?」
「ちゃう、ちゃう」
「ああ、『給付金』を『スーパー・マン』の為の支援基金に寄付することか?」
「いや、そのことは、『秘密基地』中を探したが、監視カメラはみつからへんかったから、もうええんや。寄付はせえへん!」




「え、寄付はしないのか!?君が、夜な夜な、エロ画像をWindowsの『Chromeのシークレット・ウィンドウ』でを見ていることが公表されてしまうぞ」
「ワテが見ているのは、確かに女性の裸やが、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』なんかの西洋絵画やねん。西洋美術史の勉強やで」
「ふん!それで結膜炎になって眼科通いになるのか?」




「な、な、なんで、結膜炎のこと知ってんねん?まあ、そないなことは今、どうでもええ。とにかくワテはもっと怒ってるんやでえ!」
「だから、何にだ?」
「『給付金』のことで、『年金受給者の収入は減らないのに』なんてことを抜かすスカタンがおるねん」
「ああ、そのことか」
「アホンダラや。年金の額は減らへんかもしれへんが、年金受給者の収入が減らんとは限らへんねん」
「ああ、その通りだ」
「君なら分かるやろけど、年金受給者の収入は、年金だけとは限らへんねん。いや、ぎょうさんの年金受給者は、年金だけでは食べていかれへんさかいに働いてんねん。老骨に鞭打ってな」
「ああ、そうだ」
「なのに、『年金受給者の収入は減らないのに』っちゅうのはどないやねん!実際、君は、年金だけでは食べていかれへんさかいに『スーパー・マン』になってんやろ」
「そうだ!全くもってそうだ!ううっ……き、き、君は、ボクのことを思って怒ってくれていたんだな。有難う!それなのに、ボクったら」
「いや、礼には及ばへん。ワテは適当なことを抜かす奴らが気に食わへんねん」


(続く)


2020年4月21日火曜日

【ビエール、怒る!】お前たち、年金受給者のことを知っているのか![前編]




🎶♩♫🎵🎶🎶🎵♩♫🎶

軽快に走るような音であった。

「は?」

エヴァンジェリスト氏は、机に置いたiPhoneの画面を見た。

「アイツか」

インテリだが如何にも変態っぽい髭を生やした男の顔が画面に映っていた。『Google Duo』で、友人が電話をしてきたのだ。ビデオ通話ではなく、音声通話であった。



「なんだ?」

応答ボタンを押し、面倒臭そうに応える。痛めた左手中指を伸ばしているところだったのだ。それに、あの男の用なんて、どうせクダラナイことに決っているからだ。

「おい!ワテは怒っとるでえ!」

友人のビエール・トンミー氏は、しばらく前から怪しい関西弁を使うようになっていた。

「そろそろ止めんか、その嘘くさい言葉」
「そないなこと云うと、ワテはもっと怒るでえ!」
「まあ、なんでもいいから、早く用を云え。何を怒っているんだ?また、駐車違反ステッカーでも貼られたか?」
「うっ!ちゃう、ちゃう!馬鹿にしてけつかると、君に対してでも怒るでえ!」
「ほな、どないしはったんでっか?」
「君の方こそ、似非関西弁やないけ」
「なんやて、ワテは、神戸と広島のハーフでんねん。元々は九州男児のおまはんとはちゃうで」
「とにかくワテは怒っとるんやでえ」
「どうしてだ?」
「『給付金』や」
「10万円では不足なのか?」
「まあ不足は不足やが、そのことやない。『年金受給者には』っちゅうことや」


(続く)


2020年4月20日月曜日

【給付金】もう、手を挙げた![後編]






「監視カメラさ。国は、もう国中に監視カメラを設置していてな、それでボクが手を挙げたことは確認済のはずなんだ」

ビーエル・トンミー氏のiPhone X に、友人のエヴァンジェリスト氏が、iMessageで、まさかの情報をもたらした。

「なんだと!?監視カメラあ?」
「そうだ。監視カメラでボクが手を挙げたことは確認済だから、ボクはもう給付金をもらえるんだ。しかし、君は、大丈夫か?」
「何が、大丈夫か、なんだ?」
「君が、『秘密基地』と呼ぶ君の部屋で一人、夜な夜なしていることも監視カメラに撮られているんだぞ」
「ええ!ほ、ほ、本当か!?」
「ああ、MacにインストールしたWindowsでエロ画像を見ていることもばれているぞ」
「まさか!?」
「君が、奥様にばれぬよう、エロ画像をWindowsの『Chromeのシークレット・ウィンドウ』でを見ているところも監視カメラはとっくに録画済だ」



「そ、そ、そこまでばれているのか!」
「そうだ」
「どうしたらいいのだ?」
「手を挙げぬことだな。手を挙げると、君の秘密は公表されるだろう」
「わ、わ、分った。手を挙げぬようにする。10万円は惜しいが…」
「まあ、焦るな。もう一つ手がある。寄付だ」
「寄付?」
「そう、寄付だ。10万円もらっても寄付をすれば、公表は免れるだろう」
「おお、そうなのか。では、どこに寄付すればいいのか?」
「ボクが、『エッセンシャル・ワーカー』である『スーパー・マン』の為の支援基金を作るから、そこに寄付をするんだ」




「おお、分った、分った!寄付をしようとも!」

iPhone X を持つビエール・トンミー氏の手が震えていた。


(おしまい)