「しかし、銀行は、財務比率を使った統計モデルのスコアリングで信用格付をするようになってしまったのだ。そのことが失敗であることは既に明らかだが、未だにスコアリングで融資をしている銀行は少なくないのだ」
ROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを、リビングルームのテーブルに置いたビエール・トンミー氏は、『新型コロナウイルス』の状況を伝えるニュースを放送しているテレビに眼は向けているものの、意識は、どこか他のところに飛んで行っていた。
「田舎町では、地元の金融機関は、スコアリングなんかに頼る必要はないのだ。統計的に90%当たる、ということは、裏返せば、10%は外れるということだ。しかし、田舎では、商店数、企業数は限られ、地元金融機関は、各商店や各企業の事情を熟知している。あの店の長男は、東京の大学に行って地元に帰ってくるつもりは全くない、とかな」
夫の横顔に見惚れている妻は、都会出身なので田舎町のことはよく知らない為、昨秋(2019年の秋)、夫ともに訪れた秋田の田舎町をイメージしてみた。
「そんな環境下では、スコアリングなんて不要だ。、各商店や各企業の事情を熟知していれば、信用度を100%把握できるのに、スコアリングでは90%になってしまうかもしれないんだからな。経験則に基づく財務分析だって不要かもしれないんだ」
妻は、夫が云っていることはよく分らなかったが、自分が見込んだ通り、夫が容姿だけではなく、頭脳も優れていることは判り…….
「アータあ、凄いわあ……」
と、ソファの隣に座る夫の脚に両手を置き、撫でた。
「んぐっ!」
ビエール・トンミー氏は、思わず『反応』した。
(続く)